研究課題
スギ林では、昨年度までに採取された土壌の陽イオン交換容量を計測し、先行研究と同様に、肥沃で酸性度の低い土壌と痩せて酸性度の高い土壌の2グループ間では差がないことを確認した。この結果は、「土壌の酸緩衝能を決定する塩基」を蓄える能力は土壌間差がないのにもかかわらず酸緩衝能には差が生じていることを意味し、塩基の森林における循環量が土壌の性質に差異をもたらしていること、その傾向は調査地を増やしても堅牢であることを示している。肥沃な土壌に比べ痩せた土壌のスギ林では、葉のカルシウム濃度が低く、土壌の交換性カルシウム濃度と葉のカルシウム濃度の間に高い相関が認められ、スギのカルシウム要求量のぎりぎりを満たすような、タイトなカルシウム循環が営まれていると推察された(Tanikawa et al. 2017)。またヒノキ細根系には土壌の理化学性に敏感に反応する部位があり、形態バリエーションを持っていることを多調査地間の比較で明らかにしてきた。そのような形態は生理活性にも影響を与えているのかを確認するため、細根呼吸量を異なる調査地で2年間測定した。その結果、形態指標の一つである比根長(単位重量あたりの細根長)は呼吸速度と正の線形関係にあった(Miyatani et al. 2018)。つまり、形態は生理活性を良く反映すること、比根長に影響を与える土壌の化学性は、細根形態の変化を通し森林生態系の炭素循環に影響を与えることが示された。同様の細根形態の種内変動性が、スギにもあるかを確認するため、土壌環境の異なる4調査地で同時期に細根を採取し、その次数形態を解析した。その結果、細根はその次数ごとに異なる土壌の化学性に反応する傾向が確認され、スギでも細根形態は種内で変動することが明らかになった。スギ・ヒノキの根と葉について行った室内培養試験および野外リターバッグ試験について、解析を継続して行なっている。
1: 当初の計画以上に進展している
計画にあった「スギ林における細根バイオマス量の土壌環境による変動」のみでなく、計画にはなかった「ヒノキ細根の活性(呼吸量)と形態との関係」および「スギ林で循環するカルシウム量の推定」についての研究結果を、国際誌に投稿・受理されたことは、計画以上の進展と考える。
スギの細根形態について、多樹種間で比較して特徴づける。細根動態に強く影響する因子である菌根菌の感染率を調査対象としている複数のスギ林において把握する。リターの分解過程で放出されるプロトンの量について、葉と細根を使った培養実験の結果から器官差を検出する。最終年にあたり、細根動態が駆動する土壌酸性化仮説について包括的に議論し検討する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 4件)
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