研究課題
再生可能な資源である植物バイオマスの有効利用は、循環型社会の構築のために重要である。植物バイオマスの大部分は、木材など樹木が生産する木質バイオマスである。したがって、植物バイオマスの有効利用のためには、木材の材質特性に関する情報を集積するとともに、それらの特性を決定する木材の形成機構、特に細胞壁高次構造の形成機構など樹木の二次木部細胞の分化過程を充分に解明することが不可欠である。そこで本研究課題では、申請者らが発見した、厚い二次壁と有縁壁孔など複雑な構造を有し、仮道管や道管要素などに形態が類似した二次木部様細胞を樹木の培養細胞から直接誘導する新規モデル系を駆使し、セルロースミクロフィブリルの配向・局在の制御機構やリグニンの沈着機構など、細胞壁構造のパターン形成機構を明らかにする。カルスから管状要素への誘導率を向上させるため、培地の植物ホルモン条件を検討し、交雑ポプラ培養細胞からの管状要素分化にはオーキシンとブラシノステロイドの両者の作用が必要であること、2種の合成オーキシンであるNAAと2,4-Dでは、細胞内での輸送様式が異なるため管状要素誘導への作用も異なることを明らかにした。管状要素に沈着するリグニンの分布を組織化学的手法で解析したところ、誘導培地に移してから時間が経過するにつれて、リグニンが細胞壁やセルコーナーに沈着した。リグニンの沈着過程が細胞壁とセルコーナーでは異なることから、リグニンの沈着には空間的な制御があるといえる。さらに、GFP融合タンパク質を発現させて、微小管付随タンパク質の挙動を連続的に解析したところ、管状要素の分化に伴い、微小管の局在が変化した。細胞骨格である微小管の配向や局在が、複雑な細胞壁高次構造のパターン形成を制御しているといえる。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、樹木の培養細胞から直接二次木部様細胞を誘導する新規モデル系を確立し、セルロースミクロフィブリルの局在・配向やリグニンの分布など細胞壁の高次構造を明らかにすることである。現在までの研究により、交雑ポプラやスギなど針葉樹の培養細胞から、厚い細胞壁(二次壁)と有縁壁孔やらせん肥厚など複雑な修飾構造を形成する管状要素を安定的に誘導することに成功している。特に、オーキシンやブラシノステロイドなど植物ホルモンの種類や濃度を検討し、管状要素への誘導率の向上や細胞形態の制御を行うことが出来た。また、培養細胞から管状要素へ分化中の培養細胞内の微小管の配向の動的変化に関する知見も得られた。さらに、リグニンの細胞壁への沈着開始場所に関する組織化学的知見を得ている。これまで得られた成果の一部は国内や国際学会で発表し、論文として公表したことから、順調に研究が進んでいると判断した。
樹木の培養細胞から直接二次木部様細胞を誘導する条件をさらに検討し、特に交雑ポプラにおいて、厚い細胞壁(二次壁)や有縁壁孔の形成だけでなく、発達したせん孔を形成する系を確立する。また、培養細胞から分化中の細胞における微小管やアクチンフィラメントの立体配置を解析し、セルロースミクロフィブリルの配向・局在制御機構を明確にする。一方、管状要素におけるリグニン沈着過程の理解は、細胞壁の高次構造を理解する上で重要である。そこで、細胞壁形成過程におけるリグニンの沈着場所を紫外線顕微鏡法や選択的染色法などで追跡するとともに、リグニンの前駆体に蛍光色素を標識したプローブを培養細胞に投与し、細胞壁の堆積過程との関連性を明らかにすることで、リグニンの沈着過程の空間的な制御機構を明らかにする。また、培養細胞から二次木部様細胞へ誘導過程に特異的に発現する遺伝子の解析を勧める。以上の研究から、樹木細胞壁高次構造のモデル化を行う。得られた成果は、最終報告書にまとめ、学会等で発表するとともに、論文として広く公表する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
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