研究課題/領域番号 |
15H04528
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 剛 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40230809)
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研究分担者 |
柳川 綾 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (70628700)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 木材食害性昆虫 / ケミカルフリー工法 / 熱処理 / 昆虫寄生菌 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、①高周波発生装置を用いた木質部材への現場処理を想定した各種条件の検討、②ドライアイスを用いた低温スポット処理に関する基礎的検討、③新たに発見した外部寄生菌の人工培養法の確立、④現場における熱処理および生物的処理に関するシステム構築に向けた取り組み、⑤熱処理を適切に行うための食害材中のシロアリの坑道システムの可視化、の5項目に取り組んだ。具体的な研究実績の内容は以下の通りである。 ①アフリカヒラタキクムシ幼虫を用い、高周波発生装置による殺虫処理条件の検討を実施した。その結果、フロアーシート材にダメージを与えずに十分な殺虫効力を発現させるためには、5~10秒照射-10~20秒放置-再度5~10秒照射を繰り返して行う方法が有効であることが明らかとなった。②アメリカカンザイシロアリに対するバンデージ処理の可能性について検討した結果、試作した装置に1.2kgのドライアイスを施用することにより、柱材の中心部に生息する個体も完全に駆除できることが明らかとなった。③2種のシロアリ外部寄生菌について各種培地による培養を実施した。その結果、これらの菌は一般的な子のう菌用培地では増殖しなかった。シロアリ体表における付着方法等についてより詳細な観察が必要である。また、全国のヤマトシロアリサンプルについて感染率を詳細に調査したところ、温度や標高との関連性は認められなかった。④複数のヒラタキクイムシ被害が発見された大規模マンションにおいて熱処理および生物的処理を検討したものの、住民の方が通常の薬剤処理を選択されたことから、実施が不可となった。来年度の課題である。⑤アメリカカンザイシロアリ初期コロニーの坑道システムの発達を大型X線CT装置を用いて継続的に観察し、個体数の増加がこれまでの報告よりもかなり遅いこと、および、フンの排出孔の位置と個体の存在位置との関係について新しい知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載した通り、本年度は5項目の課題を実施した。これらの項目ついては、項目④を除き、それぞれ想定していた研究内容をほぼ実施することができ、貴重なデータを得ることができた。したがって、現在までの進捗状況は、(2)おおむね順調に進呈している、と判定した。しかしながら、項目④において実施する予定であった大規模マンションでの熱処理および生物的処理については、住民の方の理解を得ることの難しさを改めて感じることとなり、積み残しとなっている。平成29年度には何とか実施したいと考えているが、もし不可能となった場合は、モデル住宅を用いたシミュレーション的な試験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、交付申請書にも記載した通り、現場で使用できるシステムの構築がメインになる。すなわち、研究課題を細かく設定した昨年度とは異なり、研究目的に設定した大きな2つの検討課題、すなわち、①木材食害性昆虫類に対する高温スポット処理機器を用いた効率的な現場処理方法の確立、および、②シロアリに対する天敵微生物を用いた効率的な現場処理方法の確立、を統合的にシステム化し、実際に現場で使用することを想定している。 より具体的には、種々の木材害虫による現場での被害材(実大材)を用いた処理条件の検討を、高周波処理、低温処理、生物的処理のすべてについて統合的に実施し、さらには、実際の現場への応用を是非実現したい。そのためには、住宅メーカ、デベロッパー等との情報交換を密に行う必要があるが、これについては、既にシロアリ駆除業者および大手デベロッパーとコンタクトをとりつつあることから可能であると考えている。 また、天敵微生物による生物的処理については、昆虫の対寄生菌防除・免疫システムの詳細な理解が不可欠であることから、例えばショウジョウバエのようなモデル昆虫を用いた基礎的検討の実施も併せて実施する予定である。 今年度の研究を進める上で最も重要な点は、現場でのモデル的な処理が可能であるかどうかである。現在既に交渉を行いつつあり、可能であると考えている。しかしながら、もし不可能となった場合には、代替として京都大学生存圏研究所が保有するモデル住宅を使用したシミュレーション実験を行うこととしたい。
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