研究課題/領域番号 |
15H04529
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
仲村 匡司 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10227936)
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研究分担者 |
片岡 厚 国立研究開発法人 森林総合研究所, その他部局等, 研究員 (80353639)
村田 功二 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (00293910)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 誘目性 / 木目模様 / 節 / 波状杢 / 視線追跡 / 画像解析 / Wood/Human Relations / 促進劣化 |
研究実績の概要 |
見る者の視線がどこに引き寄せられるかという誘目性の強弱は,木製品や木質インテリアを観察するひとに生じる心身の反応に,正にも負にも影響する.この誘目性の効果を検証するために,次のような実験と解析を行った. ・有節材の誘目性:2.4m×2.4mの壁面に節の有無および材の縦横の向きの異なる4種類の意匠を施工し,これらを観察する21名の被験者の視線の動きや脳波(後頭野の眼球停留関連電位;EFRP)を記録した.観察者の視線は節部に有意に多く長く停留し,有節壁面を観察する際のEFRPの振幅(観察対象に対する注意の度合いを反映)は白色の対照壁面よりも有意に大きかった.興味深いのは無節・縦貼の壁面で,視線の停留頻度は対照壁と同等だが,EFRPの振幅は有節材並みに大きく,また,主観的に最も「均一」で「感じが良い」と評価された.これらの結果は,節はもちろんのこと,材の向きという極めて単純な内装デザイン要素が観察者の認知反応に影響を及ぼすことを示唆している. ・波状杢の誘目性:木製品に用いられる銘木の1種として,ヴァイオリンの裏板に利用されるカエデ材の波状杢に着目し,照りの移動と誘目性の関係を検証した.10基のヴァイオリンの裏板を変角照明撮影して照りの移動を動画化した.この動画を観察する27名の被験者の視線の動きを記録し,観察時の停留点分布に基づいて波状杢に由来する明暗コントラストを抽出したところ,コントラストの大きい裏板ほど「派手」で「変化に富んだ」などの印象を与えやすいことが示された. ・促進劣化試験体の調製:屋内であれば光や空気,屋外であればさらに風雨などに曝されることで,木材表面は劣化し,その見えも変化する.この変化を精密測色によって明らかにするために,表面にスギ,カエデ,ミズナラ材を貼った化粧合板に種々の塗装を施し,ウェザーメータを用いた促進劣化処理を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,様々な銘木試料を収集して,塗装や熱劣化,光劣化処理などの表面処理を系統的に施した木材試料を調製する予定であった.ところが,次年度以後に行う予定の実大木質内装観察のための実験場所を確保することが難しくなったため,実大木質内装実験を前倒しして行うこととした.この影響で,表面処理試料の準備は予定よりも遅くなり,処理の種類も減らさざるを得なくなった. しかし,実大木質内装観察実験を前倒しで実施したことによって,「有節材の誘目性は強い」「無節縦貼の壁面は他の壁面と異なる」ことが主観評価においても認知反応においても矛盾無く示されるなど,誘目性制御の範囲を空間に拡げていく上で貴重な知見が得られることとなった. また,銘木の1つである波状杢に現れる「照りの移動」を動画で観察させる新たな実験プロトコルを確立し,停留点分布と画像特徴量を連携させることができた点も大きな進歩といえる. 促進劣化処理試験体の調製は順調に進んでおり,次年度からは熱処理材の調製も加える予定であることから,研究計画全体としては「概ね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
・各種表面処理材の調製と材色解析:今年度後回しにした表面処理材の調製を進める.具体的には,熱処理と促進劣化処理である.熱処理は木材の意匠調整にしばしば用いられるが,その見えの変化を定量的に示した例は少ない.そこで,炉内の温湿度,加熱時間などの条件を変えて熱処理材を調製し,その外観的特徴をイメージング分光装置を用いた画像解析によって数量表現する.促進劣化処理材については,今年度からスギ,ミズナラ,カエデ材を対象にウェザーメータを用いた促進劣化処理を開始しており,今後所定時間ごとに処理を中断してイメージング分光装置による測色に供試する.ここから,同一試料の経年劣化を詳細に測定し,劣化処理による意匠の変化を多面的に検証する. ・銘木の光反射特性の把握:今年度はカエデ材の波状杢に現れる照りの移動を照明方位角を変化させて顕在化した.今後は照明入射角の変化と見えの関係についても今年度と同様の解析を行って,銘木の光反射特性とその誘目性の関係を多面的に検証する. ・視線追跡による誘目性の評価:今年度と同様の観察実験(アイトラッキング,脳波測定,主観評価など)を実施し,種々の処理によって材面の誘目性や見た目の印象がどのように変わるかを引き続き検討する. ・誘目性評価指標のモデル構築:試料の調整条件,材面の画像特徴量,視線の停留分布,脳電位による感性反応評価値,見た目の印象に関する心理量など,得られたデータを持ち寄り,データ相互の相関分析,回帰分析,多変量解析などを行うことで,どのような調整条件で→どのような特徴が強調されると→どのくらい誘目性が変わり→どのくらい見た目の好ましさが正または負に変動するのか,を説明するモデルを仮組みする.
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