セルロース合成酵素複合体として引き続き酢酸菌をモデルとして選択して実験を進めた。 前年度までに、CesABタンパク質複合体およびCesABCD複合体の大腸菌発現系を構築し、その発現条件として自動誘導法が優れていることを見出した。 今年度はその条件をさらに改善することにより、CesABタンパク質複合体の精製を、CesAとCesBの解離を抑えて精製することに成功した。同じ方法をCesABCD複合体についても試行したが、この場合にはCesABCD複合体を解離せずに精製することはできなかった。 そこでCesABに絞ってタンパク質精製を進めた。さらなる発現系の最適化(タグの位置や種類)や、様々な大腸菌株を使って発現条件および精製条件の最適化を行ったが、本課題で目的とする構造解析に使用できるレベルの純度でCesABタンパク質を精製するには至らなかった。 一方で、精製標品にはセルロース合成酵素活性が残存することを確認し、またその活性は秤量法でも検出できる程度の比較的高いものであった。しかし合成されたセルロースは非天然型の集合構造であるセルロースIIであった。この点でもさらなる課題が残った。 また当初計画にはなかったが、小角X線散乱法を使って試験管内セルロース合成反応のその場測定を行ったところ、大変興味深いデータが得られたので、集中的に実験・解析を進めた。本試験管内系は既報の酢酸菌から得た粗酵素を使ったもので、セルロースII型結晶の凝集が合成される。この合成反応において、合成されたセルロースはまず慣性半径10nm程度の素構造を形成し、ある濃度を越えるとその素構造が凝集してより大きな凝集体を形成する二段階集合仮説を提案した。本結果は、セルロース合成酵素反応における固体構造形成過程に着目し、この過程を直接分析した数少ない研究であり、査読付き国際誌(IF4.784)に掲載された。
|