研究課題/領域番号 |
15H04533
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩滝 光儀 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 准教授 (50423645)
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研究分担者 |
福代 康夫 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任教授 (70095511)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 赤潮 / 渦鞭毛藻 / 系統分類 / 微細構造 / ボルギエラ科 / 眼点 / 鞭毛装置構造 / 上錐溝 |
研究実績の概要 |
シンガポールやベトナムなど,東南アジアの幅広い海域に小型スエシア科渦鞭毛藻が出現することが分かってきた。前年度は上錐溝をもたない2属2種を記載したが,本年度はベトナム沿岸産株について分子系統と鞭毛装置構造の解析を進めた。透過電顕観察により,鞭毛装置に付随する微小管束によりペダンクルが支持されること,そして,スエシア科・ボルギエラ科の中で唯一トリコシストをもち,渦鞭毛藻綱内でも報告がない側毛など特殊な構造をもつことを明らかにした。系統的にはスエシア科に近縁であるが,眼点がBタイプであることや上錐溝が2列のベシクルから構成されることなど,細胞の微細構造はスエシア科に側系統となるボルギエラ科構成種と一致したことから,ボルギエラ科に所属する新属新種としての記載論文を投稿中である。ボルギエラ科にはこれまで淡水産種のみが報告されてきたことから,初めての海産種の報告となる。 マレーシアなどで近年赤潮被害を引き起こしてきたKarlodinium近縁種についても探索と培養株の観察を行い,Karlodinium australe,K. decipiens,Takayama xiamenensisなどの既記載種を光顕観察と分子系統解析の結果から同定した。その他,分子系統解析ではKarlodiniumやTakayamaと近縁であるが,これらと明瞭に異なる形態形質をもつ小型種の培養株を確立できたことから,細胞内微細構造の観察を進めている。 東南アジアからは現在までに報告がなかったAzadiniumをベトナムと日本沿岸より検出し,細胞後端の刺を欠くなどの形態形質と,系統的位置よりA. poporumと同定した。日本からは同種とは異なる1形態型の出現を確認したことから,培養株の作成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
東南アジア各国の研究者とIOC/WESTPAC-HABプロジェクト等を通じて連携を図ることで,赤潮情報と試料の入手を進めている。現地調査により得た試料からの単藻培養株作成も順調に進んでおり,一部については形態観察と系統解析を開始している。 Woloszynskia類は細胞が小型で光学顕微鏡下では無殻種との識別が困難であったことからGymnodinium sp.などとして正確には同定されてこなかったと考えられる。これらスエシア科やボルギエラ科の所属種を眼点や縦溝の特徴により無殻種と識別することで効率的に培養株を収集できており,これらが東南アジア沿岸域に広く存在することが分かってきた。微細構造解析については,特にベトナム沿岸産株について進めた結果,ペダンクルを支える微小管束や,側毛をもつトリコシストなど渦鞭毛藻としても特異な構造だけでなく,系統的位置よりスエシア科渦鞭毛藻は淡水産のボルギエラ科藻類より派生したことなど新たな見解を得ることができたことは予想以上の成果である。 無殻渦鞭毛藻KarlodiniumやTakayamaの培養株作成と系統解析に基づく種同定を進め,東南アジアからの未報種を含む数種の出現を確認している。葉緑体が下錐に偏って存在する類縁種の培養株が確立できたことから,予備的な系統解析と細胞内微細構造観察を進めた結果,KarlodiniumやTakayama属に近縁であるがこれらの系統には含まれず,また,光学顕微鏡下では下錐に確認された赤色顆粒は予備的な透過電顕観察により眼点であることが確認された。眼点はカレニア科渦鞭毛藻からの報告はないことから,葉緑体の起源の特定も含め,本種の記載報告に向けた観察を継続する。 探索を継続してきたAzadiniumについても培養株を確立することができた。A. poporumのほか,東南アジアにおける出現種の特定を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
東南アジアに出現する小型赤潮原因渦鞭毛藻について,海外研究協力者に引き続き出現情報と培養株の提供を依頼する。東南アジア沿岸域における赤潮原因小型渦鞭毛藻の採集を継続し,単藻培養株を作成する。赤潮出現情報に基づき現地調査を行うが,その際には赤潮を形成した種に限らず,浮遊性種,底生性種を含めた小型渦鞭毛藻の培養株作成を目的とした採集を行う。 無殻種に類似したWoloszynskia類の識別については記載報告に向けた形態・系統解析を継続し,ベトナム産株の記載報告を行う。 新たに確立されたKarlodinium属類縁種の記載報告に向けた細胞内微細構造,特に葉緑体の構造観察を進める。カレニア科渦鞭毛藻としては特異的なハプト藻由来の葉緑体をもつが,この構成種からは眼点の報告はないことから,本株がもつ眼点を含む葉緑体が同様のハプト藻由来であるのかを明らかにするために微細構造に加え,葉緑体DNAと光合成色素の解析に着手する予定である。本種の記載に加え,採集した小型類縁種の系統解析を進めることで,東南アジアにおけるカレニア科汎存種の特定も併せて進める。 前年度に初めて培養株を確立できたAzadiniumは細胞が10マイクロ程度と非常に小さいことから,ネットを用いた濾過を現場で二重に行うことなどにより,栄養細胞を検出することに成功した。この方法を用いた採集を東南アジアの現場でも継続することで,本属構成種を広く把握できるように努める。 研究成果は10月にマレーシアで開催されるアジア太平洋藻類学フォーラム,フィリピンで開催予定のCCore国際セミナー等で発表する予定である。
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