研究課題
H27年度は、対象とするカイアシ類Calanus sinicusが、温帯域に出現する春季から秋季にかけて、3回の採集と実験を行った。中央水産研究所が実施する御前崎沖ライン観測に参加し、飼育用プランクトンネットの鉛直引きにより目的生物を採集し、濾過海水で飼育した飢餓区と餌環境を現場濃度で維持した摂餌区を設け、発現する遺伝子の量を比較した。実験にはCalanus sinicus雌成体を使用し、1Lの容器に3個体を収容し、それぞれの区画で、現場水温で24時間飼育した。飼育した個体は実験終了後、RNAを抽出保存した。RNA抽出物から逆転写によりcDNAを合成し、次世代シークエンサーにより塩基配列を解読し, 360,079,317本の断片配列を取得し、アダプターや低クオリティ配列を除去した後、de novoアッセンブリをおこない、203,854本のコンティグを得て、リファレンス配列を作成した。次にリードをリファレンス配列にマッピングし発現量をリード数としてカウントした、このカウント値について、統計学的な検定を行い、発現量解析とした。カイアシ類では、本研究のようないわゆるRNA-seqは初めての試みであるため、本年度は、その手法確立に研究の重点をおいた。3回の実験で、手法はほぼ確立し、飢餓区で高発現する配列を36、低発現する配列を34特定した(FDR<0.05).そのうちのいくつかはデータベースによる相同性検索から、ミオシン、トロポミオシンなど筋肉タンパク、解糖系、チロシン代謝関連遺伝子と考えられている。
2: おおむね順調に進展している
海洋性カイアシ類を含む動物プランクトン群集の研究では、他の生物群(微生物や植物プランクトン)に比べ分子生物学的な手法の導入が遅れていた。カイアシ類は優占する動物プランクトンであるにもかかわらず、マイクロアレイやRNA-seqのような遺伝子の発現解析は、ごく少数の研究例しかなく、近年の次世代シークエンサーを用いた応用例はなく、本研究が初めての試みとなった。他の生物では確立された手法ではあったが、実際の応用にはいくつかの問題点があると予想していたが、とりあえず、一年間の試みで、有意な差を示す配列を得ることができ、また、その半数程度は何らかの意味で飢餓との関係性を有すると予測できるものであった。従って、これらの成果は計画通りであり、大きなトラブルがなかったと言える。
H28年度以降にやるべきことは第一に、特定された遺伝子に関してrealtime-PCRを用いて、発現の時間的変化を明らかにして、飢餓と関係する遺伝子であることを確かめること。次に、今回は24時間の飢餓における遺伝子発現の変化を対象としたが、数時間から数日の飢餓期間を設定しH27年度を同様の実験を行うことによって、飢餓に対する応答シークエンスを明らかにするとともに、現場海域の群集に応用できる飢餓マーカーを特定することである。このためには、H28年度も複数回の航海(中央水産水産研究所御前崎沖ライン観測)に乗船し、飢餓期間を変えた実験を行う。さらに、今年度得られた結果を解釈するために、得られた遺伝子の機能をデータベースで検索し、他生物、特にモデル生物での機能から、カイアシ類Calanus sinicusが示す飢餓応答の生理的メカニズムを解明する。
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