研究課題/領域番号 |
15H04534
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津田 敦 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (80217314)
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研究分担者 |
兵藤 晋 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (40222244)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カイアシ類 / メタゲノム解析 / 分子マーカー / 休眠 / 海洋生態系 |
研究実績の概要 |
本研究計画の中では、温帯域に優占するCalanus sinicus, 亜寒帯域に優占するNeocalanusカイアシ類3種を用いて、飢餓および休眠を指標する遺伝子マーカを探索する試みを行った。 カイアシ類C. sinicusを用いた飢餓実験においては、昨年度報告した卵黄タンパク前駆体vitellogeninに加え、エネルギー代謝関連のNADH-dehydrogenase,およびたんぱく質合成に関与する Deoxynucleoside kinaseが、飢餓に対する応答で安定した変化を示した。vitellogeninおよびDeoxynucleoside kinaseは、飢餓導入より3時間後から発現低下が進行し、NADH-dehydrogenaseは飢餓導入より12時間後から発現が促進した。また、これら3遺伝子の発現変化は、完全な飢餓でなくとも、餌濃度依存的に変化することも明らかとなった。よって、これら3遺伝子の発現を比較することによって、飢餓の程度や継続を検知することが出来ると考えられ、当初の目的とした飢餓遺伝子マーカーの探索は達成された。 Neocalanus属カイアシ類3種(N. flemingeri, N. plumchrus, N. cristatus)を季節的採集試料から、春季の表層で成長している個体と、秋季に深層(500-1000m)で休眠している個体の遺伝子発現差解析を行ったところ、予想通り、休眠時にほとんどの遺伝子は発現低下を示したがhemerythrinが発現増加していることが3種とも認められた。カイアシ類の血球タンパクは知見が限られているが、酸素輸送タンパクと考えられ、冬眠する動物では冬眠期に血球量が増すことが報告されているため、同様の現象と考えられる。生理メカニズムとしては今後の検証が必要だが、休眠の遺伝子マーカーとしては有力と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は飢餓区と対象区で16配列に差が見いだされ、r-PCRで飢餓に対する安定した挙動が確認されたのがvitellogeninのみであったが、統計手法を再検討し、NADH-dehydrogenase,およびDeoxynucleoside kinaseを加えることが出来た。この3種の発現解析を行うことで確実なが飢餓同定が可能となったと考えられ、飢餓に関しては当初の目的が達成され、非モデル生物で、生理状態を把握するための遺伝子マーカーを探査する極めて先駆的な研究例となった。また、同様の手法で、休眠期および活動期の遺伝子発現を比べることによって休眠の遺伝子マーカーとして有力候補も絞ることが出来た。さらに、hemerythrinは、腕足動物や環形動物で酸素輸送タンパクとして報告されているが、カイアシ類の同機能タンパクに関しては確証はなく、今後大きな発展を遂げる可能性を持った結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
新規性の高い研究課題であり、論文化するためのデータ取得するために比較的多くの時間を消費したが、2回の国内学会での発表、2階の国際学会での発表を経て、十分な議論を専門家と積むことが出来、30年度は、主に成果の論文化を行う。また、開発された遺伝子マーカー、特に飢餓関連遺伝子の天然での発現を調査し、環境要因、特に餌生物量との比較を行うことによって、開発された遺伝子マーカーの有用性を証明する作業を行う予定である。
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