研究実績の概要 |
カイアシ類Calanus sinicusを用いた飢餓実験においては、卵黄タンパク前駆体vitellogeninに加え、エネルギー代謝関連のNADH-dehydrogenaseが、飢餓に対する応答で安定した変化を示し、飢餓遺伝子マーカーとして有力であることが示され、結果を論文としてまとめ、Marine Ecology Progress Seriesに受理された。さらに、Neocalanus属カイアシ類3種(N. flemingeri, N. plumchrus, N. cristatus)を季節的採集試料から、春季の表層で成長している個体と、秋季に深層(500-1000m)で休眠している個体の遺伝子発現差解析を行なった。各種で3000-4500配列が発現変動遺伝子として同定され、3種において共通する発現変動遺伝子は824配列であった。炭水化物代謝および脂質代謝に関連する遺伝子群の全般は休眠個体において発現量が低下しており、休眠時における低代謝状態を反映していると考えられた。またストレス関連遺伝子は、活動個体で高発現する遺伝子と休眠個体で高発現する遺伝子があり、活動個体と休眠個体で異なったストレス応答を示していることが示唆された。さらに、酸素運搬タンパク質であるヘムエリスリンの発現量は休眠個体において高かった。しかし、通常、酸素運搬タンパク質の配列中にはドメインはひとつであり、本研究で構築されたヘムエリスリン配列には3つのヘムエリスリンドメインが含まれた。このドメイン配列は、昆虫における休眠時貯蔵タンパク質diapause associated proteinと類似しており、カイアシ類においてこれまで報告されていない休眠時貯蔵タンパク質の存在が示された。
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