研究課題/領域番号 |
15H04541
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松 幸生 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (30371834)
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研究分担者 |
瀬藤 聡 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, グループ長 (10463100)
渡邊 千夏子 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, グループ長 (30371818) [辞退]
銭谷 弘 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, センター長 (80371954)
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70463908)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイワシ / 耳石 / 酸素安定同位体比 / 輸送・回遊履歴 / 経験水温 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、マイワシの発生後約1年間の輸送・回遊履歴を10日単位で推定し、その経路上の水温や動物プランクトン現存量等の環境因子のうち、各成長段階で成長速度に影響を与える環境因子を特定することを目的とする。そのため、期間中に、①マイワシの耳石に含まれる酸素安定同位体比の分析によりマイワシの経験水温履歴を1℃/10日の解像度で推定するスキームの開発、②推定した経験水温履歴と高精度海洋データ同化モデルからマイワシの輸送・回遊経路を10日単位で推定するスキームの開発、③上記のスキームを過去に遡って適用して、各種観測データ及び高解像度海洋生態系モデルの出力を利用して、マイワシの成長速度に影響を与える環境因子の特定、を行う。 平成28年度は、まず、27年度に提示した飼育稚魚の酸素安定同位体比と経験水温との関係式の普遍性を確認するために、2015年と2016年に黒潮続流域で採集した変態開始前の仔魚の耳石酸素安定同位体比を超微量炭酸塩分析システムMICAL3cで分析した。その結果、仔魚の酸素安定同位体比は、昨年度提示した関係式から外れており、むしろ、無機炭酸塩の同位体平衡の関係式 (Kim et al. 2007) に近かった。これは変態以降働き始める何らかの生理的な効果が、マイワシ耳石の酸素安定同位体比に影響を与えていることを示唆するものであり、28年度に得られた特に顕著な成果である。 続いて、上記の関係式と海洋データ同化モデルとを組み合わせたマイワシの回遊分布域を再現する手法について、平成27年度に構築した基盤モデルをもとに、回遊分布域を絞り込む手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成28年度は、①マイワシ耳石の酸素安定同位体比によるマイワシの輸送・回遊履歴を推定するスキームの高度化、②海洋データ同化モデルによるマイワシ分布域の推定、を行う予定であった。 ①については、27年度に開発したスキームが、発生後50日~120日の輸送・回遊履歴に焦点を当てていたのに対して、28年度は、生残に重要とされる発生後50日以前の変態前の仔魚期の輸送・回遊履歴の推定手法の確立を目指した。そこで、27年度に提示した飼育稚魚の酸素安定同位体比と経験水温との関係式の妥当性を確認するために、2015年と2016年に中央水産研究所が黒潮続流域で採集した変態開始前の仔魚の耳石酸素安定同位体比を超微量炭酸塩分析システムMICAL3cで分析した。この時、仔魚の耳石がごく微量のため、耳石全体をまとめて分析にかけ、得られた酸素安定同位体比と仔魚採集場所での水温との関係を整理した。その結果、仔魚の酸素安定同位体比は、27年度に提示した関係式から外れており、仔魚期と稚魚期では関係式が明瞭に異なっており、輸送・回遊履歴の推定には、成長段階に応じた関係式の適用が必要なことが明らかになった。 ②については、平成27年度に構築した基盤的手法の改良を行った。27年度の手法は、マイワシ耳石中の酸素安定同位体比について、化学分析した値と中央水産研究所の高精度海洋同化モデルFRA-ROMSの海面水温・塩分再解析値をもとに上記の回帰式から推定した値とを比較対照するだけであった。28年度は、仔魚期は完全受動輸送、稚魚期は任意の方向へ体長の3倍 (既往研究で確認されている最大遊泳速度) で泳がせることにより、日ごとの最大分布範囲を推定し、輸送・回遊分布範囲の絞り込みを行った。この手法を、2010年以降について適用した。 以上を総合すると、当初の計画通りにおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、目的の達成に向けて、期間中に以下の3点を実施する計画であり、最終年度の平成29年度は、当初の計画に沿って以下の点の取りまとめを行う:①マイワシの耳石に含まれる酸素安定同位体比の分析によりマイワシの経験水温履歴を1℃/10日の解像度で推定するスキームの開発、②推定した経験水温履歴と高精度海洋データ同化モデルからマイワシの輸送・回遊経路を10日単位で推定するスキームの開発、③上記のスキームを過去に遡って適用し、各種観測データ及び高解像度海洋生態系モデルの出力を利用して、マイワシの成長速度に影響を与える環境因子の特定。 このうち、①については、平成27年度と28年度の成果をもとに、変態前の仔魚期と変態後の稚魚期以降の耳石中の酸素安定同位体比と経験水温との間の直線回帰式を新たに提示する。そのため、水温を制御した水槽内で卵発生~仔魚期のマイワシを飼育し、仔魚期の関係式を明確化する。この関係式をもとに、マイワシの経験水温履歴を1℃/10日の解像度で、成長段階を考慮した形で推定するスキームを開発する。 ②については、平成27年度と28年度の成果をもとに、現実の産卵場データを初期値にした粒子輸送実験を行い、2010年以降の分布調査データを比較対照させて、分布推定スキームの精度検証を行う。 最後に、③については、上記のスキームを2010年以降に適用し、年ごとおよび個体群ごとの輸送・回遊経路上で経験した水温、栄養塩、植物プランクトン現存量、動物プランクトン現存量を比較して、各個体群の成長速度と各年の加入成功率に影響を与えた可能性のある環境因子の有無を確認し、環境因子を特定することを目指す計画である。
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