研究課題
【鱗の安定同位体分析】まず、サケ鱗の安定同位体分析方法を確立するため、洗浄と酸処理が分析結果に与える影響、分析に必要な試料重量、同一個体における鱗間の安定同位体比のばらつき、overplatingが同位体比に及ぼす影響を確認した。その結果、分析前処理として5%H2O2-5%NaOH混合液による洗浄のみを行うこと、分析には0.1㎎(鱗1/2枚に相当)以上が必要である、同一個体における鱗間のδ15N、δ13Cに大きな差がないことを確認した。また、回帰1年前における回帰年のoverplatingの割合は4歳回帰魚で0.62、5歳魚で0.63であった。すなわち、最外縁部以外の部位におけるoverplatingが分析値に与える影響が大きく、最外縁部以外の部位の分析値はそのままでは利用できないことが判った。以上の結果を踏まえて、岩手県津軽石川(宮古市)に1982~1984年、2011年~2013年に回帰した3~6歳魚の鱗最外縁成長帯のδ15N、δ13Cを分析した。分析の結果、鱗のδ15Nが体サイズと正相関すること、高齢回帰魚ほどδ15N、δ13Cが低い傾向があることが判った。また、1980年代と2010年代の回帰魚の安定同位体比に大きな違いがないことも明らかになった。【耳石の安定同位体分析】北海道沿岸域で採捕された回帰魚とベーリング海で採集された未成魚の耳石微量元素組成の生活史断面における変化パターンを調べた。併せて、耳石微量元素や安定同位体比による回帰個体の由来(孵化場)の判別手法を検討した。分析の結果、Sr:Ba比が周期的に大きく変動することが明らかになった。このことは回遊経路と関係するものと考えられ、今後さらに詳細を検討することにより、北太平洋におけるサケの回遊に新しい知見が得られるものと期待される。また、微量元素組成により同一地域の孵化場判別が高い精度で可能であることが判った。
2: おおむね順調に進展している
鱗分析については、分析方法を確立し、実際に鱗の安定同位体比分析を開始することができた。また、最外縁部の分析からδ15Nが体サイズと相関すること、δ15N、δ13Cとも岩手県での回帰状況が良かった年代と近年の回帰低水準期の間で大きな違いがないことも明らかにした。これらの成果はいずれも新知見であり、今後さらに検討を加え、確実なものとする予定である。耳石分析については、津軽石川と北海道太平洋側沿岸に回帰した個体に加えてベーリング海で採捕された未成熟魚の分析を行った。それぞれ分析個体数は当初計画に比べて限定的であったものの、耳石Sr:Ba比の変化に周期性があることを見出した。なお、ベーリング海で採集された未成魚試料の分析は、当初の計画には入っていなかったが、入手する機会を得たこと、また回遊履歴の解析には重要と考えられることから、追加したものである。また、微量元素組成による孵化場判別が可能であることを示したことは、今後の回帰個体の回遊履歴解析には重要である。以上、鱗分析については、計画以上に進展していると考えるが、耳石については検体数が計画に比べて少なかったものの、新知見が得られていることから、ほぼ計画通りに進展していると評価できる。これより、課題全体としては、当初計画通りに進展していると評価した。
鱗の分析については、安定同位体比分析を中心に分析を進める。併せて、最外縁部以外(回帰1年前以前に対応する部位)について、overplatingを配慮した安定同位体比の換算法を検討し、この部位の安定同位体比についても回帰年齢や回帰年代間の違いについて検討する。耳石分析については、検体数を増やして今年度同様に分析を進める。
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