研究実績の概要 |
微細藻類には脂肪酸から生合成されると考えられる直鎖脂肪族炭化水素が、種間を越えて広く分布する。しかし、その含量は通常、藻体乾燥重量の1%以下であり、藻類系バイオ燃料として注目されている、トリグリセリド系の脂質に比べて低いため、その応用は検討されていない。そこで本研究では、微細藻類における直鎖脂肪族炭化水素の生合成に関与する酵素遺伝子の解明を目的とした。 今年度は、前年度に緑藻Botryococcus brauniiから見出された、脂肪酸合成酵素様タンパク質遺伝子の性状解明を引き続き試みた。当該遺伝子につき大腸菌発現系により、in vitroでの酵素活性の検出を試みたが、当該リコンビナントタンパク質は種々の条件検討にも関わらず、可溶性タンパク質として調製することが出来なかった。 その様な状況下、緑藻Chlorella variabilis等で、脂肪酸を基質として直鎖状の炭化水素を生成する新規酵素(Fatty acid photodecarboxylase=FAP)の存在が報告された(Sorigue et al., 2017)。これを受け、B. brauniiにもFAP様遺伝子が存在するか、トランスクリプトームデータベース上で確認したところ、A、BおよびL品種のいずれにもFAPホモログ遺伝子が存在した。 そこで、AおよびB品種のFAP様遺伝子を大腸菌で発現させ、その脂溶性抽出物をGC-EIMSにより分析したところ、n-pentadecaneおよび8-heptadeceneの蓄積が認められ、当該遺伝子がB. brauniiにおけるFAP遺伝子であることが判明した。ただし、反応生成物の分子の末端に、二重結合が存在しないことから、本藻種のFAPは、新たな二重結合の生成を伴う脱カルボキシル反応を触媒せず、本藻特異的なアルケンの生成に直接的には関与しないものと考えられた。
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