魚類は,筋肉に脂質をほとんど含まない寡脂魚と,多量の脂質を含む多脂魚に大別される。両者は単に脂質の含量が異なるだけでなく,筋肉の主要なエネルギー源においても異なっていると考えられる。研究代表者らのこれまでの研究から,本研究は 1) 寡脂魚の筋肉は,エネルギー源として糖質に強く依存する。一方,多脂魚の筋肉は糖質および脂質をバランス良く利用出来る,2) 魚類筋肉中の脂肪細胞は,周辺の筋細胞に遊離脂肪酸を提供するとともに,ホルモンを分泌して脂質代謝を制御している,という2つの仮説を検証することを目的としている。本年度は,核磁気共鳴(NMR)法による糖質・脂質代謝フラックス解析をさらに進めるとともに,筋肉に対する脂質代謝ホルモンの作用を検討した。
予備的に,小型魚類を用いてNMRによる代謝フラックス解析を行った。安定同位体13Cで標識したグルコースを投与すると,乳酸への13Cの移行がみられ,好気的と目される培養条件でも,実際の代謝は予想以上に嫌気代謝に偏っていることが示された。脂質は,一般に好気的条件下のみでエネルギー源として利用することができる。寡脂魚および多脂魚の代謝を比較する際には,酸素濃度を変化させつつ,複数の条件下で得られたデータを評価する必要がある。
多脂魚マダイのex vivo組織培養系を用いて,代表的な脂質代謝ホルモンである成長ホルモンおよびインスリンの作用を調べた。リポタンパク質リパーゼ,ホルモン感受性リパーゼなどのmRNA量が,これらのホルモンに制御されていることが明らかとなった。今後,筋肉内の脂肪細胞から放出されるホルモンを同定したのち,これらの遺伝子の発現量に当該ホルモンが及ぼす影響を調べる予定である。
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