従来の概念では、系統的に遠い生物間での遺伝子伝搬は説明が難しい。我々は、“広宿主域な遺伝子伝達粒子(Vector Particle:VP)”という粒子がそれを可能にすることを見出し、報告してきた。VPに感染した受容菌は死滅せずに新たにVPを生産し、それが系統的に離れた菌に対しても感染し、遺伝子を導入するが、その分子的なメカニズムは不明である。本研究は、二つのアプローチによりその解明を試みた。まずVP生産に関わる遺伝子(PPRG)座位を微生物遺伝学的方法で検討した。HfrC大腸菌にVPを感染させ生じた形質導入株とF-大腸菌(leu pro his arg)による接合伝達でVP生産が受容菌に伝達されるかを検討したところ、pro接合体は生じず、pro近傍のleuは接合頻度が対照に対して4桁低下し、また、生じた接合体の約半数からだけVP生産が行われた。pro以外の標識に連鎖が観察されたことよりPPRGは染色体上のpro-leu遺伝子座近傍に占座し、認識配列/挿入配列が想定された。次に、VPが伝播する遺伝子の種類と配列特性を検討するため、好冷細菌由来VPを中温細菌に形質導入し、生育至適温度、許容生育温度範囲への効果を調べた。Polaribacter filamentus (生育至適温度10℃) 由来のVPを大腸菌に感染させたところ、受容菌致死はなく、全栄養要求性復帰の形質導入株(PfEtrans)を得た。PfEtransは海洋細菌培地で0~37℃の範囲で増殖、至適は30℃、10℃で最大増殖密度~2E+9 cells/mLを示した。同条件では受容大腸菌は生育できない。好冷細菌由来VPは耐塩・耐冷性を中温細菌に伝搬させうることが明らかになったことから比較ゲノム解析を行った結果、ストレス応答の代謝関連遺伝子増強が確認されたが、PPRGの最終確認は今後の課題として残された。
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