研究課題/領域番号 |
15H04550
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
長島 裕二 東京海洋大学, その他部局等, 教授 (40180484)
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研究分担者 |
永井 慎 岐阜医療科学大学, 保健科学部, 准教授 (30460497)
松本 拓也 県立広島大学, 生命環境学部, 助教 (30533400)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水産学 / 生体分子 / テトロドトキシン / バイオイメージング |
研究実績の概要 |
本研究は、フグの毒化機構解明のため、1)放射性TTXを用いたSPECT/PETバイオイメージング法によるTTXの可視化検出法を確立し、2)TTXの体内輸送にかかわるタンパク質の特性と機能の解明を行い、3)フグ体内におけるTTXの動態を明らかにすることを目的としている。 1)バイオイメージングについては、放射性TTX物質を有機合成するため、TTXとNaチャネルタンパク質との結合部位をin silico計算し、さらに、放射性TTX物質とNaチャネルタンパク質の結合様式についてモデリング計算を行い評価した。非放射性TTXとNaチャネルの結合は、リガンドの配置から結合自由エネルギーを算出するGBVI/WSAスコアリングから、主鎖構造のカルボニル基と水素結合を形成していることを推測した。放射性ヨウ素を結合させたTTX物質も同様のスコアリングを与えたことから、放射性ヨウ素を結合させたTTX物質のNaチャネルタンパク質との結合部位は変わらないことがわかり、放射性TTX物質の有力な候補となることが明らかとなった。 2)TTX輸送運搬にかかわるタンパク質として、ヒガンフグの有毒卵巣からフグ毒結合タンパク質を単離し、cDNAクローニングで一次構造を決定し、ビテロゲニン類似タンパク質と同定した。TTX取り込みトランスポーターに関しては、ヒトのカルニチントランスポーターOCTNを問い合わせ配列として、フグゲノムデータベースからトラフグのOCTNをコードすると推定されるcDNA配列を5つ検出した。得られた推定cDNA配列をトラフグ肝臓の次世代シーケンスデータベースで解析したところ、実際に発現している可能性が高い推定cDNA配列を3つに絞り込むことができた。次世代シーケンスデータベース配列が多数ヒットした領域に対してPCRを行ったところ、それぞれの推定cDNA配列で目的のPCR産物が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) バイオイメージングについては、放射性TTX物質を有機合成するために、in silicoでTTXに放射線ラベルする置換位置やラベル化する放射性元素の検討を計画していたが、ほぼ計画通り進行している。通常の非放射性TTXとNaチャネルタンパク質との結合部位や結合様式などの基本情報を得ることができた。TTXとNaチャネルタンパク質との結合構造を維持した状態で、新たに放射性物質をTTXに結合させるための部位について検討したところ、放射性ヨウ素を結合させたTTX物質は、非放射性TTXとNaチャネルタンパク質の結合様式はほとんど変わらず、有力な候補となることがわかった。また、これ以外の放射性TTX候補物質についても検討した。 2)TTX輸送運搬にかかわるタンパク質に関しては、ヒガンフグ卵巣からフグ毒結合タンパク質を単離し、その一次構造を決定した。そして、フグ毒結合タンパク質が卵黄タンパク質のビテロゲニン類似タンパク質であることを初めて明らかにした。ビテロゲニンは肝臓で合成されて卵巣に運搬され、蓄積する。したがって、TTXといつどこで結合するのかによって、本フグ毒結合タンパク質の役割が異なる。すなわち、肝臓でTTXを結合するなら卵巣への輸送、卵巣でTTXと結合するなら卵巣中での保持蓄積に関与していると考えられる。TTX取り込みトランスポーターに関しては、当初計画したTTXトランスポーター遺伝子の探索を着実に実行し、フグゲノムデータベースとトラフグ肝臓の次世代シーケンスデータベースを利用することで遺伝子スクリーニングの効率が向上した。そして、フグゲノムデータベースから検出された推定cDNA配列について、次世代シーケンスデータベース配列が多数ヒットした推定cDNA配列では,目的のPCR産物が確認され、データベースを活用したin silicoスクリーニングの有効性が確かめられた。
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今後の研究の推進方策 |
1)バイオイメージングに関しては、放射性TTX物質の合成と性状の確認を行う。分子軌道計算法を用いて、候補となる放射性TTX物質がタンパク質との結合に影響がないことを確認した後、TTXをラベル化する最適な放射性元素とラベリング条件を選択し、放射性TTX物質を合成する。そして、合成された放射性TTX物質が非放射性TTXと同等の生化学、薬物物理化学的性状を示すことを確認する。まず、培養細胞を用いて活動電位を指標にしてNaチャネルに対する結合親和性(IC50値)をパッチクランプ法で測定する。次に、トラフグ肝臓への取り込み速度を、申請者らが構築したin vitro肝組織培養法で評価する。対照に市販のTTX標準品を使用して、これと比較する。 2)TTX輸送運搬タンパク質に関しては、フグ毒結合タンパク質(ビテロゲニン類似タンパク質)の発現を明らかにするため、本タンパク質をコードするmRNAのヒガンフグにおける発現部位ならびにフグ魚種間におけるmRNA発現分布をRT-PCR法で調べる。さらに、ビテロゲニン類似タンパク質とTTXの結合を調べるため、ビテロゲニン類似タンパク質を部分精製し、平衡透析法でビテロゲニン類似タンパク質のTTX結合率や結合定数を測定する。TTX取り込みトランスポーターに関しては、TTXトランスポーター候補遺伝子のcDNAクローニングと当該遺伝子を発現させた培養細胞によるTTX輸送活性測定を行い、TTXトランスポーターを特定する。トラフグのOCTNをコードすると推定される3つのcDNAの全長配列をRACE法で決定し、動物細胞発現用のプラスミドベクターを作製する。これをリポフェクション法でヒト腎臓由来HEK293細胞に形質導入し、トランスポーター遺伝子を過剰発現させた培養細胞を構築し、TTX輸送活性を測定する。
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