研究課題/領域番号 |
15H04552
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
糸井 史朗 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (30385992)
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研究分担者 |
杉田 治男 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50139052)
鈴木 美和 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (70409069)
高谷 智裕 長崎大学, その他の研究科, 教授 (90304972)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フグ毒 / テトロドトキシン / TTX / クサフグ / トラフグ / ヒラムシ |
研究実績の概要 |
フグが保有する大量の毒はどこから獲得しているのかを明らかにするべく、TTXループの存在を提唱し、研究を実施した。その結果、研究初年度は、以下の成果が得られた。 クサフグでは、ふ化後1~2か月間にその体内に比較的高濃度のTTXを蓄積することが予備的研究で明らかとなっていたが、その要因の一つにオオツノヒラムシの幼生を摂餌していることが示唆された。オオツノヒラムシは、クサフグの産卵期とほぼ同時期に産卵し、孵化する。これらオオツノヒラムシのTTX量をLC-MS/MS分析により定量したところ、成体、卵およびふ化直後の幼生はきわめて多量のTTXを保有していた。人工授精により得たクサフグの稚魚にオオツノヒラムシの幼生を与える捕食実験を実施したところ、クサフグの稚魚はこれを食べ尽くし、速やかに毒化した。 オオツノヒラムシ以外の他の多岐腸類におけるTTXの保有状況を調べるため、まず、当該分類群を対象とする分子生物学を用いた分類体系の構築を実施した。沿岸部で採取した種々のヒラムシ類を形態学的特徴にもとづき分類後、28S rRNA遺伝子を対象とする分子系統解析に供した。その結果、一部解像度が低い部分があるものの、吸盤亜目および無吸盤亜目に分類される両個体群ともに、既報の形態学的特徴にもとづく分類体系とある程度一致した。 上述の結果から、クサフグはオオツノヒラムシの幼生を摂餌することで毒化していることが示唆されたことから、自然環境下でこれを確認する手法の開発を試みた。種々のヒラムシの遺伝子データをもとにオオツノヒラムシ特異的なプライマーを用いるPCR法を開発し、種々のヒラムシとともに種特異的な検出が可能か調べた。その結果、オオツノヒラムシを特異的に検出することができた。これがフグの消化物でも可能か調べるため、トラフグの養殖種苗にオオツノヒラムシの成体を与えて調べた結果、消化物からもオオツノヒラムシ特異的なDNA配列を検出できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フグの毒化に絡む生物としてオオツノヒラムシに着目し、少なくとも仔稚魚期の毒化に関与していることを示唆するデータが得られたことから、フグ毒ループの一部がつながったと考えることができる。また、オオツノヒラムシを特異的に検出可能な手法が確立されつつあるだけでなく、多岐腸類の分類体系を分子系統解析により可能なことが明らかになりつつあり、今後の研究に役立つことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立された分類手法およびオオツノヒラムシを特異的検出可能な手法を用いて、自然海域においてフグ類がこれら生物群を摂餌していることを明らかにする。また、多岐腸類の分子系統解析による分類の弱点に関しては、核ゲノムよりも進化速度が速いとされるミトコンドリアゲノムにコードされる遺伝子を対象に、より解像度の高い分子系統解析手法を開発する。この他、フグ毒保有生物間におけるフグ毒のやり取りを網羅的に明らかにし、フグ毒の生産者のみに頼らないフグ毒の蓄積機構、すなわちフグ毒ループの全貌を明らかにしていく予定である。
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