研究課題/領域番号 |
15H04568
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
堀野 治彦 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (30212202)
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研究分担者 |
中村 公人 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30293921)
櫻井 伸治 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 助教 (30531032)
中桐 貴生 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (80301430)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 土壌汚染 / 重金属 / スペシエーション / 有機物 |
研究実績の概要 |
重金属汚染農地において,作物可食部への重金属移行を抑制する土壌・水管理の構築を目的に,バッチ・栽培試験を行ってきた.重金属にはCd,Pb,Cuを選定し(単体または複数共存),土壌は砂丘砂および水田土とした.その結果は以下のとおりである. 1.異なる汚染条件下における重金属の形態別評価:各条件において,作物体への移行性が大きい可給態を分画して定量評価を行った.砂丘砂ではどの重金属種においても,添加量の約65~75%が可給態であったが,水田土では添加量に占める可給態割合は重金属種によって異なり,Cdで約60%,CuとPbで20~40%であった.さらに,水田土では複数の重金属共存下において特定の重金属種の移行性の増大は砂丘砂ほど明確に見られず,重金属種間の競合性が抑制されたものと推察された. 2.有機物・土壌改良材の投与による重金属不動化効果:牛糞堆肥以外に砂丘砂ではメタン発酵消化液,水田土では稲わらや消石灰を土壌改良材として用いた試験を行った.両土壌において対象とした投与材の中では牛糞による不動化が現段階で最も効果的であることが示されたが,こうした有機物はその質的性状が不動化効果を左右することも示唆された. 3.土壌水分の差による重金属の移行性変化:砂丘砂,水田土それぞれの土壌について水分条件別の重金属の移行性を比較すると,両土壌において,今のところ水分状態による可給態濃度やスペシエーションに明確な差異はなかった. 4.供試作物体への重金属の移行評価:コマツナを供試作物とした栽培試験も行い,根部と地上部(葉部)別の重金属移行度を確認した.Cd,Cuの単体と共存を試した結果,Cd単体では,pF1.5に比べpF 2.5で葉と根の同濃度と移行係数が顕著に小さく,低水分管理によってCdの吸収が抑制されたことが確認された.また,共存により根での含有量が両重金属とも低下する傾向が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
砂丘砂を用いたバッチ試験では,水分状態が圃場容水量の条件において,有機物(主に牛糞)が有する重金属不動化効果に与える汚染レベルの影響ならびに重金属種間での競合性に関して一定の知見が得られた.また,湿潤側の水分条件は現在検討中である. 水田土については重金属の添加濃度を100mg/kgDWとした条件は実施済みであり,土壌水分条件ならびに改良材の種類が重金属不動化効果に与える影響に関してのデータが蓄積されつつある.両土壌とも未実施の実験条件があるものの,試験方法は確立されているので,今後も順調に試験を進められるものと見込んでいる.重金属種を3種(Cd,Pb,Cu)に絞ることによって,実験の進捗が担保され,着々とデータの蓄積が進められている状況にある.一方,コマツナの栽培試験では,いくつかの条件において重金属ダメージによる枯死が確認されたものの,概ね順調に進められており,進捗状況に関して大きな問題はない.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,レメディエーションの一方で作物可食部への重金属移行を制御し生産を持続する栽培管理も重要と考え,土壌改良材(有機物を含む)の投入や農地水環境に応じた移行性の変化を実験的に確認してきている.今後,これらの結果を踏まえ,安全な作物生産を少しでも維持するための圃場・栽培管理のあり方を整理する方向性のもと,最終年度として次のような検討を行う. 1.作土中の重金属スペシエーション評価(主に,櫻井,堀野):植物体への移行性を念頭に,重金属の可給態・非可給態の見地から土壌中でのスペシエーションの定量評価を継続する.経時的な影響も重要視し,少なくとも重金属の添加後60日までの段階的評価を行い,特定の試料についてはより長期での結果も取り扱う. 2.土壌改良材の投与による重金属の移行特性変化(主に,中村,櫻井):有機物肥料が不動化効果をもたらすことが確認されたが,その程度が腐植度に左右されることが示唆されたことから実験反復を増やし確度を高める.その際,特に牛糞,稲わら,消石灰に焦点を当て比較検討する.同時に,酸化還元電位の影響や重金属の競合性についても確認する. 3.供試作物体への重金属の移行特性評価(主に,中村,櫻井):昨年に引き続き上記1.の状況下における土壌でコマツナを生育させ,コマツナが吸収する重金属の形態や部位別濃度を定量する.余力があればエダマメについても検討する. 4.土壌の物理化学特性の評価と農地の管理(主に,堀野,中桐):ここでは砂丘砂と(汎用化水田への展開も考えて)水田土を農地土壌に想定しているが,その酸化還元状態や水ポテンシャル,pH,CEC,有機物の量・質などが重金属の不動化に及ぼす影響を統合的に整理し,各土壌に応じた農地・水管理の方向性を探る.
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