研究実績の概要 |
本研究は安全性の高い、外来遺伝子の挿入を伴わないブタ人工多能性幹細胞の樹立を試みた。我々は正確にゲノムから外来遺伝子を切り出し可能なPiggyBac トランスポゾンを使用して、新規ブタiPS細胞の樹立を試みた。導入遺伝子にはマウス由来のリプログラミング因子であるOct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, Lin28, Nanogの6遺伝子を発現するPiggyBacトランスポゾンを独自に作成し、ブタ胎児由来初代線維芽細胞へ導入した。なお、Oct3/4に関してiPS細胞の樹立効率を上昇させるために、MyoDの転写活性化ドメインを融合させた改変型Oct3/4を使用した。導入にはリポフェクション法を用いた。遺伝子導入後、3日後にハイグロマイシンによる選択を行い、導入された細胞のみを選択した。選択された細胞をフィーダー細胞上に播種し、その後iPS細胞に最適化した培地に交換した。結果、遺伝子導入後約3週間目にiPS細胞と思われるコロニーの出現を確認した。コロニーを実体顕微鏡下で切り出し、連続的にパッセージした結果、合計3ラインの新規ブタiPS細胞の樹立に成功した。樹立したブタiPS細胞はアルカリフォスファターゼ染色を行ったところ、サロゲートマーカーであるアルカリフォスファターゼ活性において陽性を示した。今後、外来挿入した遺伝子の活性化状態をモニタリングすると共に、樹立した細胞株の性質を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 樹立したブタiPS細胞の細胞生物学的性質の解明. 奇形腫作成能力、多能性関連遺伝子の発現パターンの検出を通じて樹立したブタiPS細胞の細胞生物学的な性質を明らかにする。 2) KLF2を使用した新規ブタiPS細胞の樹立. ヒトのES細胞の研究から、近年KLF2およびNanog遺伝子を発現させることで、マウスのES細胞の形態に酷似したナイーブ型ヒト幹細胞が樹立できることが報告された。このことから、KLF2の発現によって、ヒトと同様にブタiPS細胞の品質を劇的に向上できる可能性がある。そこで、Oct3/4, Klf4, Sox2, c-MycおよびKlf2を同時に発現するベクターを作成し、さらに新規ブタiPS細胞の樹立を試みる。 3) トランスポゾンベクターのゲノムからの切り出し. トランスポゾンを利用して樹立したブタiPS細胞はそのままでは個体に戻しても、外来遺伝子がゲノムに挿入されており、組み換え遺伝子生物扱いになってしまう。外来遺伝子をゲノム上から切り出すために、トランスポゼースの発現によって外来遺伝子を消去する。トランスポゼースの発現には一過性発現のプラスミド導入もしくは一過性発現のレトロウィルスを使用する。 4) 細胞培養条件の改変によるiPS細胞の培養条件の最適化. 我々は従来の研究成果において、ブタiPS細胞は基礎培地にMEK阻害剤であるPD0325901, GSK-3beta阻害剤であるCHIR99021, 加えてTGF-betaシグナル経路阻害剤であるThiazovivin, PKC阻害剤であるGFxを使用して未分化状態を維持できることを明らかにした。近年、IWR1などのWnt/beta-catenin経路を遮断する低分子量阻害剤が多能性幹細胞の維持に有効であることが報告されている。これらの新規低分子化合物の添加によって効率良く細胞培養できる条件を明らかにする。
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