研究課題
肝臓における低アミノ酸状態による脂肪蓄積の分子機構の解明するため、低アミノ酸栄養状態で変化する脂質代謝段階の同定を試みた。その結果、細胞への糖取り込み活性、脂肪合成に関わる酵素(FAS)の活性が、低アミノ酸栄養状態で上昇していた。低アミノ酸栄養状態で、IRS2タンパク質が著増していたため、IRS2と結合するタンパク質を網羅的に探索したところ、脂質代謝関連タンパク質がいくつか単離されてきた。筋肉において低アミノ酸状態による脂肪蓄積の分子機構を解明するため、筋肉細胞を低アミノ酸培地で培養したところ、脂肪蓄積は認められなかった。この結果は、筋肉細胞は細胞自律的にアミノ酸濃度をモニターして、脂肪蓄積を誘導しているわけではないことが明らかとなった。このため、肝臓と筋肉では低アミノ酸状態によって脂肪が蓄積する機構が全く異なると考えられた。さらに、アミノ酸量を変化させた種々の餌を作成し、これをラットに給餌、ラットの血中アミノ酸濃度と肝臓脂肪量を測定し、これらのデータを機械学習で解析した。その結果、肝臓への脂肪量を血中アミノ酸濃度からエラー率数%で予想することが可能となった。さらに同じデータを自己組織化マッピングで解析したところ、血中のアミノ酸濃度からラットの生理状態を滑らかに分類することができた。
2: おおむね順調に進展している
肝臓組織において、低アミノ酸栄養状態によって上昇する脂質代謝段階を同定することができた。さらにIRS-2結合タンパク質の中に多くの脂質代謝関連酵素を見出すことができた。筋肉は細胞自律的に低アミノ酸状態をモニターしていないため、in vivoでの解析が必要であることが明らかとなった。さらにニューラルネットワークを用いて、血中アミノ酸濃度から肝臓への脂肪量を予測することが可能となった。このように当初の計画した解析結果はすべて得られており、研究は順調に進展している。
阻害剤を用いた研究成果より、IRS-2以外のシグナル分子も低アミノ酸栄養状態による脂肪蓄積に大きな影響を与えていると考えられた。そこで平成28年度は、当初の研究計画に加えて、IRS-2以外のシグナル分子も候補分子と考えて解析を行う。さらに、筋肉組織においては肝臓とは全く異なる脂肪蓄積機構が存在することが明らかとなった。そこで筋肉組織における脂肪蓄積はin vivoやex vivoの系を使いながらメカニズム解明を試みる。機械学習により血中アミノ酸状態から肝臓の脂質量を予測することが可能となった。この予測式を利用して、肝臓により多く脂肪を蓄積させる最適化された餌組成の予測、さらに肝臓に脂肪を蓄積するメカニズムの解明を試みる。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Br J Nutr.
巻: 114 ページ: 1410-1418
10.1017/S0007114515002846
Frontiers in Endocrinology
巻: 6 ページ: 73
10.3389/fendo.2015.00073
Nat Commun
巻: 6 ページ: 6780
10.1038/ncomms7780
FEBS J
巻: 282 ページ: 987-1005
10.1111/febs.13213.
J Biol Chem.
巻: 290 ページ: 5881-5892
10.1074/jbc.M114.624759.
バイオサイエンスとインダストリー
巻: 74 ページ: 21-25
http://endo.ar.a.u-tokyo.ac.jp/shingroup/index.html
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2015/20150409-1.html