研究課題/領域番号 |
15H04583
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伯野 史彦 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30282700)
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研究分担者 |
伊藤 昭博 国立研究開発法人理化学研究所, 吉田化学遺伝学研究室, 専任研究員 (40391859)
藤井 渉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (40708161)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アミノ酸欠乏食 / 臓器特異的脂肪蓄積 / インスリン / IGF / mTOR |
研究実績の概要 |
今年度は、アミノ酸欠乏によって活性化または不活性化されるシグナル系を解析した。その結果は、mTOR系の不活性化が顕著であったため、mTORの活性阻害剤を添加して、脂肪蓄積量を追跡した。その結果、mTORの活性阻害剤の添加によって、肝臓細胞への脂肪蓄積量は顕著に増加した。この結果から、肝臓細胞はアミノ酸欠乏によって生ずるmTORの不活性化を介して脂肪蓄積を誘導することが示された。また筋肉細胞であるL6細胞、および脂肪細胞である3T3-L1細胞をアミノ酸欠乏培地で培養しても脂肪蓄積は誘導されなかった。このことから、アミノ酸欠乏によって誘導される脂肪蓄積は肝臓細胞特異的に引き起こされることが明らかとなった。しかし、リジン欠乏食を給餌したラットにおいては、筋肉への脂肪交雑や脂肪組織量の増加が認められることから、アミノ酸欠乏による脂肪蓄積は肝臓組織と、筋肉・脂肪組織とでは分子メカニズムが異なることが明らかとなった。また、脂肪蓄積を誘導するアミノ酸を同定するため、食餌中から一つのアミノ酸のみを欠乏させた食餌、および低アミノ酸食に一つのアミノ酸のみを加えた食餌を給餌したところ、アルギニンとスレオニンを欠乏した食餌では肝臓に、リジンを欠乏した食餌では筋肉と脂肪組織に脂肪が蓄積することが明らかとなった。また、セリンとグリシンを低アミノ酸食に加えた場合は、成長遅滞を伴わずに脂肪蓄積を誘導することを明らかとした。続いて、肝臓細胞を用いて、アミノ酸欠乏によって変化する脂質代謝経路を測定した。その結果、アミノ酸欠乏によって脂質合成経路の活性が上昇しており、脂質分解経路に変化は認められなかった。さらに糖取り込みが上昇していたことから、アミノ酸欠乏によって糖取り込みが上昇し、これが脂質合成の基質となり、脂質合成が促進したと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでは、低アミノ酸食の給餌によって肝臓、筋肉、脂肪組織に脂肪が蓄積することを示していた。今回、食餌中のアミノ酸は一つのアミノ酸によって脂肪蓄積量が調節されているが、一方で、血中に存在するアミノ酸に関しては、一つのアミノ酸量ではなく、アミノ酸量のバランスによって肝臓への脂肪蓄積量が調節されていることを示すことができた。一方で、筋肉への脂肪蓄積量や、脂肪組織量は血中のアミノ酸量の低下をモニターして引き起こされているわけではないことが明らかとなった。このことから肝臓と、筋肉・脂肪組織では、低アミノ酸によって誘導される脂肪蓄積が異なる機構で引き起こされていることを明らかにすることができた。このように、これまで一般的に受け入れられている仮説を覆すような成果が得られたと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、肝臓と、筋肉・脂肪組織では異なるアプローチで研究を進めていく必要がある。肝臓については、肝臓初代培養系や肝臓細胞ラインを用いて分子的なメカニズム解明を進めていく必要がある。一方、筋肉や脂肪組織については、個体を用いて、血中のホルモン動態やアミノ酸動態を解析して、アミノ酸以外のホルモンなどの関与も視野に入れて解析を進めていく。
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