研究課題
英国で1986年に発見された牛海綿状脳症(BSE)はウシのプリオン病であり、日本においてもその発症が確認され、大きな政治・社会問題へ発展した。さらに、1996年英国において発症したヒトの新変異型クロイツフェルトヤコブ病が、牛由来食品を介したBSEのヒトへの伝播であることが証明された。我々は、世界に先駆けて黒毛和種牛小腸からウシ腸管上皮細胞株の樹立に成功し、確立したin vitro M細胞分化誘導系を用いて、M細胞が異状プリオン蛋白を取り込んでトランスサイトーシスを行うことを世界で初めて証明した。さらに、プリオンノックアウトマウスを用いて、経口投与した異状プリオン蛋白がマウス腸管M細胞により取り込まれ、マクロファージに受け渡されて腸間膜リンパ節および脾臓に運ばれ、その間に神経細胞と接触するプリオン伝播経路を初めて確認した。また、ウシ腸管上皮細胞株をM細胞に分化誘導させ、磁気ビーズを含有する細胞内小胞を回収してLC-MS/MS解析を行い、膜輸送蛋白複合体トランスポートゾームライブラリーの構築に成功し、プリオン蛋白に結合する解糖系酵素アルドラーゼAの同定に成功した。我々は、プリオン蛋白が腸管上皮M細胞より分泌された解糖系酵素アルドラーゼAと結合して輸送小胞へと取り込まれることが、プリオン侵入に必須であることを発見した。本研究では、輸送小胞の発芽がプリオン蛋白・アルドラーゼA複合体とM細胞膜上の受容体との結合によって誘導されることに着目し、受容体蛋白を膜輸送蛋白トランスポートゾームライブラリーより絞り込み、本研究終了時までにはその受容体を同定してM細胞を介したプリオン侵入機構の解明に加え、神経細胞への伝播機構の解明を試みるものである。
1: 当初の計画以上に進展している
解糖系酵素アルドラーゼAはsCJD患者とプリオン感染マウスの脳髄液で増加が確認され、神経細胞で発現しており、類似したAldolase Cがプリオン蛋白に親和性があることが報告されている。異常プリオン蛋白が細胞内へ侵入することによってプリオン感染は始動するが、その取り込み機構はほとんど解明されていないのが現状であった。我々は、M細胞がビーズ単体に比較してプリオン蛋白(PrP)結合ビーズを1.6倍多く取り込むことに加え、抗アルドラーゼ抗体処理がその取り込みを70%抑制するが、ビーズ単体の取り込みには影響を与えなかったことより、プリオン蛋白の取り込みにはアルドラーゼAとの結合が必須であることを発見した。アルドラーゼAは細胞質蛋白であるにもかかわらず、細胞外へ分泌される非常に珍しい蛋白であることを明らかにした。また、アルドラーゼAで処理は、M細胞によるプリオン蛋白結合ビーズの取り込みを50%抑制することに加え、処理したアルドラーゼAがトランスサイトーシスされることを新規に見いだした。この結果は、M細胞膜上にはアルドラーゼA受容体が存在し、プリオン蛋白との複合体形成がプリオン感染には必須の条件であることが判明したことより、研究は予想以上に進んでいると判断される。
次年度以降は、以下の実験を行う。1)アルドラーゼA結合磁気ビーズを用いた膜輸送蛋白トランスポートゾームライブラリーの作成:アルドラーゼAを結合した磁気ビーズを作成してM細胞分化BIE細胞に取り込ませ、輸送小胞を磁気スタンドで回収し、膜輸送蛋白トランスポートゾームライブラリーを作成する(図7)。そのライブラリーを用いて2次元泳動後に転写したメンブランをアルドラーゼA蛋白で処理し、抗アルドラーゼ抗体でアルドラーゼAが結合するスポットを絞り込む。画像解析によって、ゲル上のスポットを切り出してLC-MS/MS解析行い、受容体候補蛋白を選定する。本実験は、アルドラーゼA蛋白を同定した手法を改良することで、容易に応用可能である。2)受容体の同定:M細胞がプリオン蛋白あるいはアルドラーゼ結合ビーズを取り込む測定系を用いて、選定した受容体候補蛋白に対する抗体でM細胞を前処理し、M細胞の取り込みに対する影響を解析して、最終的な受容体候補蛋白を選定する。さらに、選定した受容体に対する抗体を用いて、M細胞の異常プリオン蛋白取り込みに対する影響を解析し、異常プリオン蛋白・アルドラーゼA複合体に対する受容体を同定する。
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