研究課題/領域番号 |
15H04589
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
西川 義文 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 准教授 (90431395)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感染症 / ワクチン / 免疫 / 畜産 / ネオスポラ |
研究実績の概要 |
本研究はネオスポラの病原性因子を同定し、それを用いたワクチン開発への応用を目的としている。平成28年度は主に下記項目について研究を実施した。 【宿主免疫を活性化するネオスポラ分子の同定】ネオスポラの近縁原虫であるトキソプラズマcDNAクローン(40種)を用いて、免疫反応関連シグナル伝達を活性化する分子のスクリーニングを行った。活性を有した分子9種類について、トキソプラズマとネオスポラのゲノム構造を比較したシンテニー解析を行い、対応するネオスポラ遺伝子をクローニングした。これらネオスポラcDNAのうち、4種類に宿主免疫を活性化する可能性が示された。 【候補分子の遺伝子欠損原虫の作出と表現型の解析による病原性因子の特定】上記当該遺伝子を欠損させた組換えネオスポラ株を作出した(欠損株A、欠損株B、欠損株C、欠損株D)。本研究では、世界初の技術となるゲノム編集技術を応用した遺伝子欠損ネオスポラの作出法の開発に成功した。これら欠損株の表現系を比較したところ、欠損株Aにおいて感染単球の炎症性反応の低下、マウスに対する病原性の低下が認められた。従って、欠損株Aの当該遺伝子はネオスポラの病原性に関与する可能性が示唆された。また、欠損株Bにおいては感染慢性期のマウスに対する病原性の低下が示され、感染時期に対応した病原性因子の存在が推測された。 【その他の成果】ネオスポラのワクチン開発には、トキソプラズマ抗原の情報も有用である。免疫刺激活性のあるタンパク質が病原性因子であるという本研究のコンセプトに適合したトキソプラズマ由来タンパク質(TgPrx3)を同定した。これらタンパク質をマウスに免疫することで、トキソプラズマに対する防御免疫を誘導することに成功した。従って、TgPrx3のネオスポラホモログは病原性因子の可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に計画した下記項目についての進捗状況を以下に示す。 【候補分子の免疫活性化能の評価】スクリーニングした原虫因子について、in vitro培養系による免疫活性化能の評価を行った。候補分子(A、B、C、D)の組換えタンパク質を大腸菌発現系にて作製し、免疫細胞(単球、マクロファージ)への反応性を解析したところ、遺伝子Cと遺伝子DにおいてTLR2依存的な細胞応答を示すことが判明した。 【候補分子の遺伝子欠損原虫の作出と表現型の解析による病原性因子の特定】4種類の候補分子について、CRISPR/CAS9を用いた遺伝子編集技術により遺伝子欠損ネオスポラを作出した。欠損株のin vitro性状解析を行ったところ、欠損株Aでは感染細胞からの脱出率の低下、欠損株Bと欠損株Dにおいて感染率の増加が認められた。マウス(BALB/c)に対する欠損株の病原性を検証したところ、欠損株Aの病原性の低下が認められた。次にFLAGタグ融合遺伝子Aを欠損株Aへ導入した原虫株を作出した(相補株A)。相補株Aは、欠損株Aにおいて確認された感染単球の炎症性反応の低下をキャンセルする結果が得られ、マウスに対する病原性の復帰も確認できた。以上の結果は、遺伝子Aがネオスポラの病原性に関与することを強く示唆している。 【その他の実績】ネオスポラの近縁原虫であるトキソプラズマから新規のワクチン抗原としてペルオキシレドキシン3(TgPrx3)を見出した。よって、TgPrx3のネオスポラホモログが新規ワクチン抗原になる可能性が示された。また、タイ産コショウ科植物Piper betleの抽出物に抗ネオスポラ活性があることをin vitroとin vivoの解析により証明した。したがって、ワクチンと抗原虫薬を併用することで、治療・予防効果の向上が期待できる。 以上より、当初の計画通りおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
【病原性因子を利用したモデルワクチンの作製】同定した候補分子(A、B、C、D)をワクチン抗原としたモデルワクチンを作製する。マンノース糖鎖被覆リポソーム(OML)内へ候補分子タンパク質を封入し、作製条件の確立を行う。 【マウスを用いたモデルワクチンの感染防御の評価】モデルワクチンの免疫誘導能を評価するため、マウス(C57BL6およびBALB/c、7週齢、メス)へワクチンを接種し、ELISAによる抗原特異的抗体産生の測定、脾臓細胞、T細胞への抗原刺激による細胞増殖およびサイトカイン産生の測定を行う。遺伝子Cと遺伝子DにおいてTLR2依存的な細胞応答を示すことが示されたため、TLR2遺伝子欠損マウスを用いた評価も行う。本研究で想定する理想的な免疫誘導は、病原性因子のアジュバント活性を期待した特異抗体の産生と抗原特異的T細胞応答の誘導が達成できることとする。感染モデルは非妊娠マウスと妊娠マウスを用いる。非妊娠マウスを用いる場合、感染後経時的に臨床症状(マウスの生存、虚脱、神経症状、毛の逆立ち)を観察し、感染後30日めに脳組織を採材する。脳組織からDNAを抽出し、原虫数を定量するPCRによりワクチン効果を評価する。妊娠マウスを用いる場合、妊娠10日目のBALB/cマウスにネオスポラを腹腔内感染させる評価系を用いて、ネオスポラの垂直感染に対する阻止効果を検証する。 また、同定した病原性因子のネオスポラ感染牛への反応性を確認するため、病原性因子(組換えタンパク質)に対する感染牛由来リンパ球の反応性と野外牛血清を用いた病原性因子に対する抗体検査を実施する。本解析により、病原性因子がウシの免疫反応に認識されるか評価する。次に、野外感染牛の脳組織由来DNAを用いて病原性因子のDNA配列を決定し、遺伝子多型を解析する。
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