トキソプラズマ感染白血球の挙動を明らかにするため,赤色蛍光タンパクを発現する組換え原虫をGFPマウスの白血球に感染させたの ち,妊娠野生型マウスの血流中に移入した。経時的に臓器を採材し,標的臓器に流入する白血球と虫体をそれぞれ緑色および赤色蛍光を指標に観察した。この結果、虫体は必ずしも胎盤組織で長期間増殖してから胎児に侵入するのではなく、何らかのメカニズムで短期間に胎盤組織を通過していることが強く示唆された。現在のところ、感染白血球がそのまま通過しているのか、いったん白血球から脱出した虫体が通過しているのかはっきりしない。前者であった場合、胎児に到達した感染白血球から早期に虫体が脱出してしまうと思われるため一時的に虫体の動きを止める必要があることが分 かった。そこで一過性に宿主細胞からの脱出を停止させることを目指し、脱出に関与していると知られる遺伝子産物を不安定化した組換え虫体を作成した。これにより上記の問題に取り組むための実験系が確立できた。胎盤での挙動が予想外であったために当初計画の手法では実験が進められず非常に時間がかかったが、あらたな実験系が確立できたため問題が解決への道筋が開かれた。研究期間終了までに胎盤通過のメカニズムについて決定的な結論を得ることはできなかったが、研究期間終了後の早い段階で達成できるめどがついた。研究機関内の成果としては「胎盤組織における虫体の長期にわたる増殖」が垂直感染に必ずしも必要ではないことが明らかになった。
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