本研究は、(1)タンパク質-タンパク質間相互作用ネットワークの構築、(2)分子カスケードの抽出、(3)実証研究の3つを実施することにより、AQP11機能阻害による腎障害発症メカニズムを明確にし、腎の病態生理の理解の促進とそれに基づく将来的な創薬につなげようとするものである。 平成28年度までに、(1)の研究、(2)の研究、そして(3)の研究の一部を実施した。まずシステムバイオロジー解析を実施したところ、AQP11機能阻害による腎障害発症経路として、NOX2による活性酸素経路およびアポトーシス経路の2つの経路の活性化が関与する可能性を見出した。その後2つの経路のうち、アポトーシス経路の上流に位置するNOX2による活性酸素経路に焦点を当てて解析を進めた。その結果、タンパク質レベルでも、NOX2による活性酸素経路の活性化を確認した。さらに興味深いことに、この経路の活性化は浸潤細胞によってもたらされる可能性も観察した。一方、同様の表現型を示す動物(pcyマウス)においても、NOX2による活性酸素による障害経路が活性化していることを確認した。また、(3)に関して、AQP11に関連した遺伝子改変動物の作製を行ったが、表現型が安定しなかった。そこでこれらの結果を踏まえて、平成29年度においては、NOX2による活性酸素経路が妥当であったのかどうかについて、pcyマウスにおいて薬理学的な手法を用いた実証研究を行った。その結果、NOX2が腎障害、特に腎の線維化に関与していることを観察した。 以上から、AQP11機能阻害による腎障害発症経路として、細胞浸潤→NOX2経路の活性化→アポトーシスの発生→腎の線維化の経路が重要である可能性が考えられた。
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