A型インフルエンザウイルス(IAV)感染後の肺炎には、ウイルスそのものによる原発性ウイルス性肺炎と細菌感染が関与する二次性感染型肺炎に分けられる。これまで、申請者らは、季節性IAVによる原発性ウイルス性肺炎には、ウイルスを活性化(HAタンパク質の開裂を促進)させる宿主セリンプロテアーゼTMPRSS2が必須の酵素であることを証明した。一方、死亡例の大部分を占める二次性感染型肺炎は、ウイルスと細菌の相乗作用の関与が示唆され、その重症化機序の全容解明は行われていない。申請者らは原発性ウイルス性肺炎の延長として、(細菌性)プロテアーゼによるウイルス活性化(HAの開裂促進)という視点で、解明を試みた。 IAVは、野生型マウスで致死的であるが、TMPRSS2遺伝子欠損マウスでは非病原性のマウス馴化株を用いた。肺炎球菌はモルモット由来株をマウスで馴化したものを用い、実験には、血液寒天培地から菌液を作製したものと、肺炎球菌感染マウスの肺洗浄液の二種類を用いた。野生型マウスを用いた場合、①IAV単独感染群及び②肺炎球菌単独感染群では、有意な体重変動あるいは致死的な体重減少を示さないが、③混合感染群でのみ、致死的な経過を示した。興味深いことに、肺炎球菌感染マウス肺洗浄液を菌液として用いた場合、肺炎球菌感染肺洗浄液をフィルター濾過したろ液(菌体なし)、そのろ液にプロテアーゼインヒビターを添加したもの、どちらにおいても、③混合感染群と同様な致死的な経過を示した。また、この感染条件において、Tmprss2 遺伝子欠損マウスを用いて、同様に感染実験を実施したが、野生型マウスのように、③混合感染群でのみ、重症化や感染肺でのウイルス複製効率の増加、HA開裂の促進は認められなかった。以上より、本申請で用いたIAVと肺炎球菌の場合、混合感染による重症化は細菌性プロテアーゼに起因しないことが考えられた。今後は、重症化の起因となった、ろ液成分の解析を試みる。
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