研究実績の概要 |
平成29年度は初年度に分離したトリ白血病ウイルス (ALV) GifN 株を用いて感染実験を行うことにより,分離株の中枢神経系に対する病原性を解析した。卵肉兼用種の鶏の粘液肉腫から分離された GifN_001 株を,孵卵 6 日目の Line-M系 SPF 白色レグホンの有精卵に卵黄嚢内接種し, 孵化後34または75日齢まで観察した後,感染鶏は剖検に供され,病理学的に検索された。肉眼的には異常は見られなかった。組織学的には,34日齢の感染鶏5羽中1羽 (20%) および75日齢の6羽中4羽 (67%) の脳に神経膠腫が誘発され,34日齢の5羽中2羽 (40%) および75日齢の6羽中2羽 (33%) の小脳に小脳低形成が認められた。神経膠腫の組織像は他の ALV 株の感染実験例のそれらと比較すると,血管周囲性リンパ球浸潤や小膠細胞の浸潤が顕著であった。一方,小脳外顆粒層の遺残,プルキンエ細胞の配列異常といった小脳低形成を示唆する変化は限局的かつ軽度であった。免疫組織化学的には神経膠腫の腫瘍細胞,小脳外顆粒細胞および内顆粒細胞がALV共通抗原陽性を示した。以上の成績から,粘液肉腫と関連するALV が神経系にも病原性を示すことが実験的に証明された。envSU の塩基配列の相同性に基づくと,GifN_001 株は骨化石症と神経膠腫の併発例から分離されたGifN_002, 004株と概ね同一のALVであると考えられる。結論として,本研究によって骨化石症や粘液肉腫を誘発するALV 株の中に神経病原性をもつ株が存在することが初めて明らかになった。
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