研究課題
猫コロナウイルス(FRCoV)の変異領域に関して、腸炎を起こしたコロナウイルス(FECV)と致死的な伝染性腹膜炎を起こしたコロナウイルス(FIPV)の塩基配列の比較を行った。候補遺伝子として、ORF3c, ORF7b, 開裂部位(RSRRS), S蛋白融合活性部位(1058番目と1060番目)を調査した。ORF3abc遺伝子においてFIPV9株中7株(78%)、ORF7a,bに関してはFIPV15株中2株(13%)、開裂部位の配列に関してはFIPV44株中36株(82%),FECV14株中6株(43%)に変異が認められた。一方、S蛋白融合活性部位の1058番目と1060番目のアミノ酸に変異が認められたものは、FECV41株中4株(10%)であったのに対してFIPV156株中143株(91.6%)であった。S蛋白の1058と1060番目のアミノ酸配列の変異は弱毒型と強毒型を識別する遺伝子マーカーとなることが確認された。フェレットコロナウイルスにおいて野外から新規遺伝子型ウイルスの発見に成功した。また、その組換えヌクレオカプシド(N)蛋白を使用した既報の株と新規株の血清学的な識別を可能にした。更に、一部のフェレットコロナウイルスは新規遺伝子型フェレットコロナウイルスと既報の株との組換えにより生じたことを証明した。このことは、フェレットコロナウイルスが、コロナウイルスの変異および新規出現に関して有用な動物モデルとなることを見出した。ベトナムのイヌより分離された犬コロナウイルスがIIbという遺伝子型でこれまで日本で分離されたことはなかった。これは、S蛋白の一部が豚伝染性胃腸炎ウイルスと近縁で組換えウイルスである。この分離ウイルスの興味深い点は、ネコ由来培養細胞で急激にORF3abc遺伝子を欠損させた。これはORF3abc遺伝子が宿主での増殖に重要であることを示している。
2: おおむね順調に進展している
ネココロナウイルスに関しては、強毒化に関与する遺伝子がほぼ確定できたと考えている。フェレットコロナウイルスにも遺伝子組み換えが起こっていることを発見した。イヌコロナウイルスの国内に報告のない遺伝子型の分離に成功し、そのウイルスが異種の培養細胞で急激に遺伝子欠損を起こすことを見出した。上述のように、新たな発見を導くことができたのに対して、これまで世界で誰も分離に成功していないFECVの分離ができないため、感染実験を開始することができなかったことが若干の問題点だと考えている。
これまで分離が不可能であるFECVに関しては、ネコの糞便中からウイルスを抽出し、実験的に猫に接種する。また、FECVが分離できないため、リバースジェネティクスにより人工的にFECVを作出することを現在進行中である。FIPV感染における抗体依存性感染増強機構に関しては抗体による細胞間の伝播も増強することが判明している。抗体依存性感染増強機構の機序をより詳細に解明する。フェレットがコロナウイルスの遺伝子組み換えのモデルとなることが判明した。猫よりもより扱いやすいフェレットを用いて、自然宿主における遺伝子組み換えを検証することが可能となった。このモデルの欠点は、まだウイルスが分離できていないことであるが、フェレット由来培養細胞の作製に成功したので、今後、分離を目指したい。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Journal of Veterinary Medical Science
巻: 78(6) ページ: 1013-1017
10.1292/jvms.16-0059
InfoVets
巻: 19(1) ページ: 34-38
J-VET
巻: 28 ページ: 8-14
http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~vetmicro/html/research.html