研究課題
コロナウイルスは劇的な進化を遂げ、宿主域や病原性を変えている。その結果、SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスが出現した。獣医領域には、致死的な猫伝染性腹膜炎を引き起こす猫コロナウイルスが存在する。このウイルスは猫体内で変異することによって、感染性と病原性を変化させていることが判明してきた。重要な点は、我々は変異した後のウイルスを解析していたことである。自然界で存続する(できる)ために猫コロナウイルスが保持している機能を我々は見過ごしてきた。本申請研究ではコロナウイルスによる新興感染症の出現予測を可能にするために、自然界に存在するウイルスを知り、どのような変異を遂げて強毒化していくのかを解明する。本年度は1.3種類のネコ伝染性腹膜炎ウイルス(Yayoi, C3663, C3678)の全塩基配列の決定を終了した。2.C3663株の感染性クローンの作成中である。3.160株のFIPVと40株のFECVのS遺伝子を比較した結果、1058番目に138株(86.3%)、1058番目と1060番目に147株(91.9%)に変異が認められた。これらの変異がFIPの診断に有用であることが示された。国内の株にはさらに1042番目のアミノ酸が関与している可能性も示唆された。4.FIPの発生が多い施設の猫コロナウイルス遺伝子を健常ネコとFIP発症猫で比較した結果、FIP発症猫にのみ1058番目の変異が見つかった。5.ベトナムの犬コロナウイルスからIIb亜型が分離された。6.犬コロナウイルスは培養細胞での継代で急激に3abc遺伝子が変異した。3abc遺伝子の猫体内での重要性が示唆された。7.猫に猫コロナウイルス含有乳剤を2回接種したが抗体上昇が観察されなかった。そこで、4で解析した非発症猫の乳剤を接種して観察中である。感染が成立したようである。今後、長期にわたり観察を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
今回、大きな進展として、FIPの発生が多発する猫の飼育施設の遺伝子解析が可能となったことである。その結果、我々がこれまで得ている変異部位が変異することにより、FIP発症していることが証明された。また、発症猫にのみADE活性も観察されている。自然感染の状態で仮説が証明された貴重な例である。さらに、犬コロナウイルスの培養細胞での継代により、3abc遺伝子が急激に欠損する現象を見出した。これは3abcが猫の体内で増殖するのに必要で、培養細胞では必要でないことが示された。一方、猫コロナウイルスの実験感染を3回試みたが、最初の2回は感染成立には至らなかった。3回目で接種物を変更した結果、ようやく感染成立したので、今後の観察に期待したい。
現在、FIPV3663株の感染性クローンを作成中であり、近々、完成すると考えている。完成後は、猫コロナウイルスへと遺伝子の改変を行う。猫コロナウイルスの実験感染に成功したので、継時的にウイルスの変異を観察する。ADEに関してより詳細な解析を行う。具体的には、ADEに関与している細胞側の遺伝子を同定する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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