研究課題
平成27年度の研究から、KITの二次変が犬の肥満細胞腫のイマチニブ耐性化に関与していることが示された。その一方で、KITに二次変異を持たないイマチニブ耐性の細胞株(rCoMS1)も存在することが明らかとなった。平成28年度は、主にrCoMS1を用いてKIT二次変異非依存性のイマチニブ耐性メカニズムを検討した。rCoMS1では恒常的に活性化したKITが細胞表面に過剰に発現していることが明らかとなった。この過剰発現したKITのリン酸化はイマチニブでは十分に抑制できなかった。このことから、rCoMS1ではKITの過剰発現がイマチニブ耐性化に中心的な役割を果たしていると考えられた。そこで、rCoMS1におけるKIT mRNAの発現レベルを検討したが、明らかなKIT転写の増加は見られなかった。次いで、rCoMS1におけるKITの蛋白寿命を解析したところ、rCoMS1ではイマチニブ感受性のCoMS細胞に比べて明らかに延長しており、KITの分解が低下していることが示された。さらに、rCoMS1ではKITのユビキチン化が低下していること、さらに脱ユビキチン化酵素阻害剤によってrCoMS1におけるKITの過剰発現が抑制されることが明らかになった。このことから、rCoMS1では脱ユビキチン化酵素阻の量あるいは活性の増加によってKITのユビキチン化が低下し、その結果KITの過剰発現が生じると考えられた。以上のことから、犬の肥満細胞腫のイマチニブ耐性化機構にはKIT二次変異ばかりでなく、ユビキチン化の低下に起因するKITの過剰発現が関与すると考えられた。さらに、平成27年度の研究において、イマチニブに対して耐性を獲得した犬の肥満細胞腫においてKITに二次変異を持つ症例の割合は少ないことが示唆されたことから、今回特定された分子機構が臨床例におけるイマチニブ耐性化の重要な要因である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は犬の肥満細胞腫株化細胞におけるKIT二次変異非依存性のイマチニブ耐性化メカニズムを明らかにすることを目的とした。今回の研究において、これまで知られていない新たな肥満細胞腫のイマチニブ耐性化機構の存在が示唆された。平成27年度の成果と合わせて、イマチニブ耐性化にはこのように異なる分子機構が存在することが明らかになり、さらにそれらが生じるメカニズムについて踏み込んだ解析を実施することができた。平成28年度に得られたこれらの知見は、当初予定していたスケジュールに従って得られたものであり、このことから研究は概ね予定通りに進んでいると言える。
平成29年度は、犬の肥満細胞腫株化細胞を用いたイマチニブ耐性化のさらなる解析を行う予定である。予備実験の段階ではあるが、別のイマチニブ耐性化肥満細胞腫株化細胞ではKITに二次変異とKITの過剰発現が同時に存在する可能性が示されており、より複雑なイマチニブ耐性化機構が存在する可能性が示唆されている。本年度は、このような複合的な耐性化機構にスポットを当て解析を進める予定である。さらに、これまでの耐性化機構の研究成果に基づき、それぞれの分子基盤に基づいた耐性克服法の構築を検討することとする。以上より、イマチニブ耐性を獲得した犬の肥満細胞腫の症例に対する個別化した耐性克服戦略のロードマップが構築できると考えられる。
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