研究課題/領域番号 |
15H04603
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今村 拓也 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90390682)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 進化 / エピゲノム / ノンコーディング / 霊長類 / 生物多様性 |
研究実績の概要 |
脳の形態学的・機能的な違いは遺伝的に98%の相同性を示すヒト・サルでも明らかであり、実験動物として汎用されるマウスも、殆どの遺伝子セットを共通に利用していながら、独特な神経系を獲得している。一方、タンパクになれないノンコーディングRNA(ncRNA)セットは種間多様度が高い。本課題は、種特異的ncRNA獲得と機能化が、既存のタンパク質をコードする遺伝子の発現スイッチを多様化しうるのか検定するものである。平成27年度はラットの神経モデル細胞におけるncRNAのカタログ化に大きな進展があった。カタログ化ののち以下の機能同定にも成功した。 神経細胞は増殖すると、回路に余分な電気信号が生まれてノイズとして働いてしまうため、増殖することはない。神経細胞以外でも増殖が適切に制御されないと、がん化のリスクが亢進する。pancRNAという、プロモーターと呼ばれる遺伝子の発現制御に重要な働きを担うゲノム領域から生み出されるncRNAに着目した。これまで、両方向性プロモーターがcAMP刺激を感知する、いわばエネルギーセンサーとして遺伝子のスイッチON・OFF制御に働くことがわかっており、神経細胞の場合、動物によって異なりうるエネルギー感知メカニズムがその細胞の機能発現に関与することが考えられた。予想通り、RNAの大規模解析から、このタイプのエネルギーセンサーでも、一方がタンパク質を命令しないpancRNAで一方がタンパク質コード遺伝子というペアになっていることが大多数であることを発見した。更に、Nusap1遺伝子に着目し、そのpancRNA量を操作することで、エネルギー伝達物質がなくともエネルギーセンサー効果を再現することに成功した。これにより、ncRNAが短時間のエネルギー情報を長期間保持し、単一遺伝子レベルにてON・OFFを記憶させることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
神経細胞には「増えない」という性質が備わることで、一生を通じて神経回路の安定性を維持している。平成27年度は、細胞を増やさないメカニズムに関わる重要な因子としてノンコーディングRNAをカタログ化できたことで、その動物種差を明らかにすることで、獣医学領域およびヒト疾患の治療応用研究に資すると考えられる。本成果については、九州大学からプレスリリースを行った(http://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/3)。
|
今後の研究の推進方策 |
げっ歯類の神経細胞のノンコーディングRNAのカタログ化を深化できたことから、今後は霊長類神経細胞系列のノンコーディングRNAのカタログ化と機能解析を充実させる。これにより、バイオインフォマティクス解析と分子生物学解析と表現型解析を統合した種間差解析を強力に推進する。
|