研究課題
脳の形態学的・機能的な違いは遺伝的に98%の相同性を示すヒト・サルでも明らかであり、実験動物として汎用されるマウスも、殆どの遺伝子セットを共通に利用していながら、独特な神経系を獲得している。一方、タンパクになれないノンコーディングRNA(ncRNA)セットは種間多様度が高い。本課題は、種特異的nRNA獲得と機能化が、既存のタンパク質をコードする遺伝子の発現スイッチを多様化しうるのか検定するものである。平成28年度は、1)ncRNAによるエピゲノム形成機序を示すことに成功し、また、2)ゲノムDNAの三次元構造(インタラクトーム)の種間差の同定に大きな進展があった。1)代表的な遺伝子活性化型エピゲノム修飾として知られるヒストンH3の4番目リジンのトリメチル化(H3K4me3)とH3K27のアセチル化(H3K27ac)は脳から発現するプロモーターncRNA(pancRNA)群の発現と正に相関していた。興味深いことに、H3K4me1はpancRNAを有する遺伝子プロモーターにはpancRNAの発現状態に無関係に認められ、ゲノム配列にシトシン(G)あるいはグアニン(C)が偏在した構造が認められた。一方でpancRNAを欠く遺伝子プロモーターでは調べた全ての組織において低レベルに推移し、GCの偏在は認められないことを発見した。したがって、種特異的pancRNAの潜在能力はGCのバイアス獲得を基礎としてH3K4me1にて識別されていると考えられた。2)新学術領域研究「先進ゲノム支援」のサポートを得て、マウス・チンパンジーそれぞれの種において多能性幹細胞から神経幹細胞に分化する過程でのトランスクリプトームとインタラクトームデータの取得を一部終了できた。これにより、昨年までに得ていた種特異的pancRNAのリストの大幅な拡充に成功し、現在エンハンサーRNAの同定を進行中である。
1: 当初の計画以上に進展している
新学術領域研究「先進ゲノム支援」のサポートを得られたことにより、トランスクリプトーム解析を今年度に終了させることができた。関連して、種特異的pancRNAにエピゲノム形成機序に関する論文を出版した。
トランスクリプトーム・インタラクトーム解析も順調に進んでいることから、pancRNA以外の種特異的機能ノンコーディングRNAの同定と作用機序に関する研究を深化していく。
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http://scb.wp.med.kyushu-u.ac.jp/imamura