研究課題/領域番号 |
15H04606
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中潟 直己 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 教授 (30159058)
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研究分担者 |
中川 佳子 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 助教 (30732739)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マウス / 受精卵 / 核酸導入 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
今年度は「1、透明帯除去受精卵を用いて、簡便なリポフェクション法による受精卵へのゲノム編用ベクターの導入法を開発する。」ことを目的として研究を行った。その成果を以下に示す。(1)現在販売されている様々な核酸導入試薬のうち、ウシ血清アルブミンを含む受精卵の培養液へ直接添加でき、核酸導入効率が高く、受精卵の生存率や胚発生率の良いトランスフェクション試薬を選定した。その際、透明帯除去受精卵(裸化卵)を用いて、GFPレポーター遺伝子を含むゲノム編集ベクターの導入を検討したが、GFPレポーター遺伝子の発現が弱く、卵の自家蛍光が観察の妨げとなった。そのため、ベクター導入後、染色観察が可能なLacZマーカー遺伝子を含むプラスミドDNAと裸化卵を用いて、核酸導入のための試薬選定を行った。7種類の試薬を検討した結果、Lipofectamine 3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific)とFuGENE HD Transfection Reagent(Promega)の2試薬は良好な成績であったため、これらの試薬を使って研究を進めた。(2)既にマイクロインジェクション法にて変異導入効率を確認済のゲノム編集ベクター(プラスミドDNA)の裸化卵への導入を試みた。PCR産物のシーケンシング解析を行ったところ、変異型の波形は非常に弱く、変異導入効率は低率であると考えられた。使用実績のあるベクターであったため、プロモーター強度ではなく、プラスミドDNAの核内移行や発現強度が問題と考えられたため、ゲノム編集可能なmRNAの導入を検討した。(3)既にマイクロインジェクション法にて変異導入効率を確認済のTALEN mRNAを裸化卵へ導入するため、mRNA用の導入試薬であるLipofectamine MessengerMAX reagentとFuGENE HD Transfection Reagentを使用し、検討を行った。PCR産物のシーケンシング解析を行ったところ、変異配列導入胚を高効率に得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画に沿って研究を遂行し、概ね目的を達成することができた。 今年度は、主にプラスミドDNAやmRNAを用いた導入試薬の検討を行うため、核酸の濃度測定に不可欠な微量分光光度計を購入した。極少量のサンプルで正確な核酸の濃度測定を行うことができ、迅速に研究を進めることが可能となった。 また、本研究では多くのマウス受精卵を作製する必要があるが、当研究室で開発した新規の超過剰排卵誘起法を用いることによって通常の過剰排卵誘起法を用いた場合に比べ、雌1匹あたり2~3倍多くの卵を採取することが可能となり効率的に受精卵を作製することができた。当研究室の超過剰排卵誘起法は動物愛護や作業効率の観点から優れた方法であり、このような技術を活かすことにより、効率的な作業の進行が可能となった。体外受精後に行う卵の選別では、多核卵、単為卵、未受精卵を確実に除外し、正常な受精卵のみを研究に使用するため、高倍率で立体感のある観察が可能な実体顕微鏡を購入した。これまでに使用していた実体顕微鏡よりも格段に観察しやすく、卵の選別作業をスムーズに行うことが可能となった。 さらに、広島大学の山本研究室と連携して研究を進めることにより、本研究に必要なゲノム編集ベクター等を速やかに作製および供与いただいた。山本研究室と頻繁に意見交換を行い、技術協力をいただくことにより、確かなゲノム編集技術を用いて本研究課題に取り組むことができた。また、本研究と平行してマイクロインジェクション法を用いたゲノム編集個体の作製を進め、導入する核酸種やゲノム編集方法の違いによる産子への発生率や変異導入効率の差異を精査することにより、本研究課題を効率よく進めるための基盤作りを行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
27年度に作製した裸化卵を使用したゲノム編集胚を仮親に移植し、産子への発生を確認すると共に、今後は二つ目の研究課題である「2、透明帯が存在しても受精卵内に核酸が取り込まれるような方法を開発する。」を主な目的として研究を進める。 裸化卵の使用では、リポフェクション処理や仮親への胚移植作業が困難なうえ、裸化胚は移植後、産子への発生率が低い可能性が考えられるため、上記方法を開発することは必須である。そのため、来年度は以下3通りの方法により、裸化卵で確認済のTALEN mRNA導入を検討し、ゲノム編集胚が得られれば、個体作製を行う。 (1)無処理受精卵へのリポフェクション処理。現在、裸化卵での核酸導入を確認したリポフェクション試薬を用いて無処理受精卵へのmRNA導入を検討する。 (2)透明帯の菲薄化受精卵へのリポフェクション処理。透明帯の構造を脆弱化させる試薬として、当研究室でその作用を確認済みのグルタチオンやN-アセチルシステインなど受精卵の生存や発生に毒性を与えない試薬を使用する。また、これまでマウスだけでなく、家畜の受精卵においても広範に使用されている酸性タイロードやプロナーゼ、コラゲナーゼなどの透明帯除去試薬を用いて、段階的な透明帯菲薄化を試みる。得られた透明帯菲薄化受精卵を用いてmRNAの導入を検討する。 (3)透明帯穿孔受精卵へのリポフェクション処理。当研究室に設置済みのレーザー装置を用いて透明帯を穿孔し、mRNAの導入を検討する。核酸導入後は、ゲノム編集による変異確認を行うため、発生した胚盤胞のゲノミックPCR、ヘテロ二重鎖移動度アッセイ、制限酵素断片長多型解析、Cel-Iアッセイ、シークエンス解析などを行う。ゲノム編集技術全般については広島大学山本教授、佐久間特任講師、透明帯菲薄化法については当研究室の竹尾講師と議論を行いながら研究の推進を図る。また、研究の成果は論文、学会発表などにより情報発信を行う。
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