近年、受精卵へのマイクロインジェクション法とゲノム編集技術を組み合わせることにより、高速な遺伝子改変マウスの作製が可能となった。しかしながら、高額な装置と高度な技術が必要なマイクロインジェクション法を用いた受精卵への核酸導入法は、誰もが簡便に行うことのできる方法とは言い難い。そこで、本研究では、簡便な受精卵へのゲノム編集技術導入法の開発を目的とした。今年度は「透明帯存在下でも受精卵内へのゲノム編集用ベクターの導入が可能なリポフェクション法の開発」を目的とし、昨年度までに胚盤胞期胚の解析にて変異導入を確認した2通りの導入法を用いて受精卵を処理した。 (1)還元型グルタチオンあるいは透明帯除去試薬を用いて、受精卵の生存や発生に毒性を与えない程度の透明帯菲薄化処理を行い、核酸導入後、胚移植を行ったところ、得られた産子の解析では変異導入を確認することができなかった。 (2)当研究室に設置済みのレーザー装置を用いて透明帯を穿孔し、核酸導入後、胚移植を行う方法では、得られた産子の解析においても、変異導入を確認することができた。 リポフェクション法による核酸導入は非常に簡便な方法であり、この方法が受精卵への核酸導入および個体作製に利用可能であったことから、本研究は、今後の遺伝子改変マウス作製およびその応用研究に大いに貢献できると考える。ただし、実用的な変異導入個体の作製には効率改善が必要であり、今後、更に条件検討を行う必要があると考えられた。 また、上記の方法とエレクトロポレーション法を組み合わせることにより、透明帯に孔を生じさせ、核酸の導入効率を向上させることが可能か、およびタンパク質導入用リポフェクション試薬の利用が可能かを検討するため、エレクトロポレーターを購入した。今回の検討では、これらの方法による変異導入効率の改善を確認することはできなかったが、今後も条件検討を続ける予定である。
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