研究課題
完全変態昆虫の成虫器官は成虫原基が変態期に急速に成長発達して形成される。この過程は20-ヒドロキシエクジソン(20E)により誘導されると考えられてきたが、その分子機構はほとんど分かっていない。一方、我々は最近、カイコガのIGF様ペプチド(BIGFLP)を発見し、これが成虫原基の成長に重要な役割を果たす可能性を示した。そこで本研究では、20EとBIGFLPが成虫原基に対し協調的に働くことで成虫器官が形成されるとの仮説のもと、主に生殖器原基に焦点を当て、成虫器官形成のホルモン調節の全容を解明することを目標としている。27年度は、両ホルモンの作用の特徴と関連、さらにそれぞれのシグナル伝達経路について解析した。主な成果を記す。1.20EとBIGFLPのそれぞれが生殖器原基の成長に及ぼす効果をin vitroで解析した。BIGFLPは主に組織タンパク質量の増加を、20Eは組織タンパク質量の増加および組織の伸長(形態形成)を促進することが明らかとなった。両者を同時に投与すると、タンパク質量の増加が相乗的に増加した。BIGFLPは20Eによる組織の伸長を促進しなかった。2.両ホルモンのシグナル伝達経路を解明するため、シグナル伝達阻害剤をホルモンと組み合わせて投与し、成長促進に対する阻害効果を調べた。BIGFLPの作用はPI3キナーゼ経路の阻害剤により、20Eの作用はMAPキナーゼ経路の阻害剤により阻害され、それぞれの経路の関与が示唆された。これら経路の関与は、BIGFLP投与によりAKTのリン酸化が、20Eの投与によりERKのリン酸化が促進されることにより確認された。3. CRISPR/Cas9法によりBIGFLP遺伝子欠失変異体を作出した。第0世代では特別な表現型の異常は見られなかった。現在、第二世代での表現型解析を目指し、複数の変異体系統を継代飼育中である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた実験のほとんどが予定どおり終了した。結果も期待どおり、あるいは想定内のものであり、研究は順調に進んでいると言える。エクジステロイド不活性化酵素の注射実験は時間の都合で手がつけられなかったが、これは28年度早々に始める予定である。
27年度に実施できなかった実験を含め当初の計画どおりに研究を進める。28年度はカイコガを使用して以下の1)-4)を実施するほか、並行して、ショウジョウバエを使った比較研究を行う。1)前年度に作出したBIGFLP遺伝子欠損変異体の表現型解析2)エクジソン不活性化酵素の注射によるエクジソンシグナル抑制と表現型解析3)エクジステロイドとBIGFLPのシグナル伝達経路間のクロストークの解析4)エクジステロイドの作用が膜受容体を介して発現する可能性の検証
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
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