研究課題
本研究では、カイコガの蛹から成虫への発生において、変態誘導ホルモンである20Eと昆虫IGF様ペプチド(BIGFLP)が成虫原基に対し協調的に働くことで成虫器官が形成されるとの仮説のもと、主に生殖器原基に焦点を当て、成虫器官形成のホルモン調節の全容を解明することを目標としている。28年度は、BIGFLPのホルモン作用を解析する目的で前年度に作製したBIGFLP遺伝子欠失変異体の表現型の解析を中心に研究を進めた。主な観察結果を示す。1)BIGFLP欠失変異体の体重変化を調べたところ、雌雄とも終令中期以降に有意な減少が認められた。雄では野生型との差は小さかったが、雌では20-30%の減少であった。変異体では野生型よりも1日早く吐糸期に入り摂食期が短いため、このことが体重減少の一因なのかもしれない。2)変異体の成虫器官のサイズを、前翅の面積、前脚の長さ、触覚の長さについて計測し野生型と比較した結果、一定レベルの減少が見られた。しかし、その程度は体重の減少率とほぼ同じであった。3)卵巣の重量を変異体と野生型で比較したところ、劇的な減少が見られた。この結果より、BIGFLPは卵巣の発達に極めて重要であることが示唆された。また、これまでにカイコガのin vitro実験で得られた結果を、ショウジョウバエを使った遺伝学的解析により検証・補完するための実験系の確立を目指した。目標は成虫原基の成長におよぼすエクジソンシグナルとインスリンシグナルの相互作用の検出である。両シグナルの組織特異的調節に必要な遺伝系統の入手、作製および各種掛け合わせ実験を行った。予備実験として複眼において両シグナルを単独で低下させたところ、インスリンシグナルの低下により眼のサイズの低下が見られ、エクジソンシグナルの低下により致死となった。致死性を回避し蛹期特異的にシグナルを低下させる方策を現在検討中である。
3: やや遅れている
昨年度に得られた成果の論文発表に必要なデータの補充に多くの時間を要したため、一部実験の実施が遅れることになった。しかし、BIGFLP欠失変異体の表現型解析から予想外の重要な結果が得られており、これは将来的な発展が期待できる大きな研究成果である。ショウジョウバエを使った実験は計画通り進めているが、エクジソンシグナルの低下が致死をもたらすとの結果は予想外であった。現在はこれがネックとなり、先に進めない状況にある。
カイコガを使った研究はおおむね計画どおりに進んでおり、新たな重要な発見もあったことから、その発展も含め、当初計画どおりに進めていく予定である。ショウジョウバエを使った実験については遺伝子操作に伴う致死性がネックとなっており、その克服が課題であるが、現在、克服に向けた手は打っており、当初計画に変更はない。
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Scientific Reports
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