研究実績の概要 |
バキュロウイルス発現系(BES)は組換えタンパク質の発現系として広く利用されているが、昆虫の分泌・修飾経路をそのまま利用するため、糖鎖修飾において哺乳類と異なる昆虫型のN-結合型糖鎖が付加される。本研究では、カイコを用いたバキュロウイルス発現系においてヒト型糖鎖を持つ高品質な有用タンパク質を安定的に発現することを目的としており、本年度はN型糖鎖の改変を中心に研究を行った。 まず、糖鎖構造改変を効率よく観察するためのレポーター糖タンパク質の開発を行い、糖鎖付加が起こらない領域のアミノ酸配列を削り込み、さらに人工糖鎖付加部位を組み込んだ改良型ヒト酸性糖タンパク質(α1AGP)を作製した。このタンパク質は、分泌量が多く、精製が容易な上に、高度にグリコシル化されていた。また、糖鎖の構造解析の結果、比較的均一な典型的昆虫型N-結合型糖鎖を有しており、糖鎖構造の変化を観察するためのモデル糖タンパク質であることがわかった。さらに、このタンパク質を異なるカイコ系統に摂取したところ、付加される糖鎖の本数に相違があることが示唆された。 次いで、昆虫細胞における糖鎖修飾経路の改変のため、複数のヒト由来糖転移酵素(MGAT2, MGAT3, MGAT4, MGAT5A, MGAT5B, B4GalT1, ST6Gal1) をカイコ培養細胞に導入した各種安定発現株を作製し、BES により組換え糖タンパク質を発現させ、回収し、ウェスタンブロット、レクチンブロットおよび質量分析を用いて、糖鎖構造の変化を観察した。その結果、MGAT2、 MGAT3、 MGAT5A、 MGAT5B発現株において糖鎖構造が昆虫型から、複合型構造や bisecting 構造, 多分岐構造へと構造が一部変化したことが確認された。しかし、昆虫型構造が一定の割合で残留しており、現在、改変効率の改善に向けさらに研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の円滑な遂行には、糖鎖構造改変の効率的なアッセイシステムが必須であり、本年度の研究において、非常に有用なレポーター糖タンパク質を開発することができた。このタンパク質は、典型的な昆虫型糖鎖が蒸されており、小分子であるにもかかわらず、最大7本の糖鎖が付加される。興味深いことに、すべての予測サイト糖鎖が付加されるわけではなく、0~7本までの糖鎖が付加されるため、電気泳動では、明瞭な8本のバンドを生じる。このことは、このレポーター糖タンパク質が、昆虫における糖鎖付加サイトの認識・選択機構の解明にも有用であることを示唆している。 昆虫培養細胞における糖鎖修飾経路の改変については、予定どおり、複数のヒト由来糖転移酵素(MGAT2, MGAT3, MGAT4, MGAT5A, MGAT5B, B4GalT1, ST6Gal1) をカイコ培養細胞に導入した各種安定発現株を樹立し、一部のヒト由来糖鎖転移酵素導入細胞においては、糖鎖構造が昆虫型から、複合型構造や bisecting 構造, 多分岐構造へと変化したことを確認した。これらの成果により、次年度の目標を絞り込むことができた。
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