研究課題/領域番号 |
15H04623
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
石川 幹子 中央大学, 理工学部, 教授 (30296785)
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研究分担者 |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20369135)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 緑地計画 / 復興まちづくり |
研究実績の概要 |
本研究は、宮城県仙南平野における「復興まちづくりと沿岸域の再生」について、(1)津波被害と地盤沈下による沿岸域の変化の経年的調査とエコシステムの研究、(2)防災集団移転促進事業等による復興まちづくりの計画論の研究、(3)流域圏土地利用の歴史的変遷と変貌の分析を踏まえた激甚災害からの復興の知見の体系化と復興緑地計画論の構築を目的とする。 (1)については、大震災の津波に対し、海岸域において残存した海岸林、地盤沈下等により生じた湿地、さらに新たに造られていく海岸林について、経時的な植生変化の把握から沖積平野の生態系のダイナミズムを明らかにした。これらは超長期間隔で訪れる大規模な津波による撹乱という、東北太平洋側沿岸域の本質的な生態的攪乱パターンに対する生態系のダイナミズムあるいはレジリエンスを把握・検討するものであり、地域の今後の土地利用計画/緑地計画に反映させるものである。また、復興事業により、多様な海岸林の植樹等が進んでおり、実態調査を行った。 (2)については、宮城県岩沼市の震災直後からの歩みを調査し、調査の枠組みと仮説の検討を行った。岩沼市の事例では、時間軸に沿って、①グランドデザイン期、②自主まちづくり検討期、③行政まちづくり検討期、④まちづくり整備期に分かれ、それぞれ対象とするエリア、合意形成のシステム、まちづくりの手法について分析を行った。 (3)については、沿岸域だけではなく、流域圏を対象として、自然、災害、農業、歴史的文化資源などの基礎的情報を集約し、復興緑地計画を検討する上での基盤情報の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「(1)津波被害と地盤沈下による沿岸域の変化の経年的調査とエコシステムの研究」では、津波被災海岸林について、津波後のマツ類の天然更新の可能性を検討するためマツ実生の分布調査を実施した。また、海岸林の林床植生における自然かく乱(津波)による動態を、かく乱依存性の高いと考えられるカワラナデシコを指標植物としてモニタリングを行っている。津波により仙台平野南部に幾つか生じた海岸域の湿地植生については、予備的調査を実施した。 被災住民との協働による海岸の森づくりでは、被災住民の新たなコモンズの再生、強靱な海岸林再生を目指し、仙南地域の被災後の海岸林調査、植林地における初期植生調査を踏まえ、海岸林管理の経験を持つ被災住民、全国の支援者との協働により植林計画を作成した。 「(2)防災集団移転促進事業等による復興まちづくりの計画論の研究」では、岩沼市の復興まちづくりの手法を時間軸に沿って整理し、方法論とプロセスを精査した。岩沼市の復興事業の特色は、「多重防御によるグリーンインフラの形成とコミュニティを主体とした安心・安全な復興」の実現であり、被災者の生活と心の安定のために、岩沼市が基本に据えたものは、スピードとコミュニティの絆を何よりも大事にしたことであった。 「(3)激甚災害からの復興の知見の体系化と復興緑地計画論の構築」では、流域圏における復興緑地計画の検討を行うための地域の水系や景観や生物多様性の骨格となるランドスケープ構造に係わる環境基盤データについて、基本項目のGIS化を行った。
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今後の研究の推進方策 |
「(1)津波被害と地盤沈下による沿岸域の変化の経年的調査とエコシステムの研究」では、仙台平野南部の海岸域の湿地植生の調査を進める。また、2012・2013年に残存海岸林の群落構造調査を行っており、それらの海岸林についてその後の変化をモニタリングする。これらの状況と千貫丘陵の植生との比較を通じて、流域圏における丘陵-平野部(屋敷林)-海岸部の海岸林/湿地の連続性および漸層変化を検討する。また、津波被災地における海岸林植栽は、当該被災集落の元住民の参加により、平成27年10月の海岸林植栽を関係者の合意の中で予定していたが、住民が仮設住宅からの転居直後であることから住民側より植林イベントの延期要望があった。さらに苗木植栽は冬季を避ける必要があったため、住民組織との再検討により平成28年4月の植樹予定となった。海岸林植栽の植樹計画や植林に係わる協働の仕組みづくり、植樹後の維持管理について、住民の海岸林管理の経験や全国からの支援者の意見を踏まえ議論することができたことで、海岸林植林及びその後のモニタリングも順調に進むものと考えている。 「(2)防災集団移転促進事業等による復興まちづくりの計画論の研究」では、激甚災害からの復興を「回復力(レジリアンス)」の視点からとらえ、この実現を担う主体はコミュニティであるという仮説に基づき、コミュニティ・レジリアンス論の構築を行う。また、消滅した沿岸部の集落のヒアリング調査とアーカイヴの作成を継続して行うとともに、かつての海岸林の利用・管理・運営方式、年中行事などとの対応を分析し、コミュニティを支えてきたコモンズについて考察する。 「(3)激甚災害からの復興の知見の体系化と復興緑地計画論の構築」では、地域の水系や景観、生物多様性の骨格となるランドスケープ構造に係わる環境基盤データ(GIS)を作成する。
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