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2016 年度 実績報告書

動物の細胞外マトリクスを標的とする病原性細菌の定着・感染機構に関する構造生命科学

研究課題

研究課題/領域番号 15H04629
研究機関京都大学

研究代表者

橋本 渉  京都大学, 農学研究科, 教授 (30273519)

研究分担者 三上 文三  京都大学, 農学研究科, 教授 (40135611)
丸山 如江  摂南大学, 理工学部, 助教 (90397563)
研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード宿主細胞外マトリクス / グリコサミノグリカン / 連鎖球菌 / 輸送系 / 代謝酵素
研究実績の概要

ヒアルロン酸やコンドロイチンを代表とするグリコサミノグリカン(GAG)は、ウロン酸とアミノ糖の二糖の繰り返し配列をもつ多糖であり、動物細胞外マトリクスの主要な構成成分として細胞間相互作用に重要な機能を示す。一方、ある種の細菌は、GAGを接着や分解の標的として宿主動物細胞と相互作用する。今年度は、主に、病原性細菌における断片化GAG(二糖)の輸送系と代謝酵素を解析した。
連鎖球菌Streptococcus agalactiaeはヒアルロン酸を分解する。ヒアルロン酸の断片化と分解に関わる酵素群をコードする本菌の遺伝子クラスターには、フォスフォエノールピルビン酸を駆動力とする輸送体[フォスフォトランスフェラーゼ系(PTS)]遺伝子が存在する。そこで、PTSの輸送活性測定法として、連鎖球菌のトルエン処理細胞によるフォスフォエノールピルビン酸の消費を定量する方法が適していることを確認した。一方、連鎖球菌遺伝子クラスターの類似セグメントを連鎖桿菌ゲノムに見出し、PTSの代わりに基質結合タンパク質依存ABCトランスポーターがコードされていることを発見した。基質結合タンパク質の組換体を調製し、本タンパク質が断片化GAGと結合することを明らかにした。
GAG(不飽和ウロン酸)の代謝に機能する連鎖球菌Streptococcus pyogenes由来NADH依存還元酵素SpyDhuDの立体構造を、X線結晶構造解析により決定した。その結果、本酵素は、三層からなるα/β/αを基本骨格として補酵素結合モチーフRossmann foldと二本のループをもつことが分かった。その補酵素結合部位におけるアデニル酸リボース2’位結合部位では、電荷が負に帯電しており、空間容積が小さいことから、本酵素がNADPHを利用できず、NADHに特異性を示す構造要因が明らかになった。
以上のことから、病原性細菌におけるGAG輸送系と代謝機構を明らかにすることができ、これらの分子機構を創薬ターゲットとして利用できる可能性を示した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

GAGの取り込みに関わる細菌の分子機構としてPTSの存在を示唆しており、本研究によりその分子機構に関する予備的なデータを取得することができた。また、連鎖球菌とヒト培養細胞との相互作用について、ヒアルロン酸を介して両者が接着する可能性が示された。一方、ゲノム解読細菌を対象としたGAGに作用する遺伝子クラスターの解析により、新たなGAG輸送系候補として基質結合タンパク質依存ABCトランスポーターを見出した。そこで、基質結合タンパク質の機能を解析したところ、本タンパク質が断片化GAGと結合することを明らかにした。PTSは輸送過程で基質のC6位水酸基をリン酸化するため、C6位水酸基が修飾されていない断片化ヒアルロン酸の輸送には適しているが、C6位水酸基に硫酸基が付加されているコンドロイチン硫酸を基質とすることはできない。一方、ABCトランスポーターは基質を修飾することなく輸送することができる。実際に、基質結合タンパク質がC6位水酸基に硫酸基をもつ断片化コンドロイチン硫酸とも結合することから、この基質結合タンパク質依存ABCトランスポーターが硫酸化GAGの輸送に機能することが強く示唆される。GAGの多くは硫酸化されているため、本ABCトランスポーターは多様なGAGの輸送を可能とする。
以上の研究成果は、細菌による宿主動物細胞のGAGへの作用に関して重要な視座を与える。

今後の研究の推進方策

断片化GAGの輸送系PTS(サブユニットIIA, IIB, IIC, 及びIID)の構造機能解析を進める。具体的には、連鎖球菌のトルエン処理細胞を用いて、PTSの発現特性や基質特異性を明らかにする。そのためには大量の断片化GAGが必要となるため、断片化酵素(リアーゼ)の大量発現系を構築し、本酵素を用いて断片化GAGを調製する。また、PTSの各サブユニットの組換体発現系を構築し、結晶化に着手する。既に、サブユニットIIAのX線結晶構造解析を進めている。
連鎖桿菌に見出した断片化GAGの輸送に機能する基質結合タンパク質依存ABCトランスポーターについても、その機能と構造を明らかにする。ABCトランスポーターは膜タンパク質であるため、プロテオリポソーム再構成系を確立し、その機能を明らかにする。
GAGの分解に機能する不飽和グルクロニルヒドロラーゼについて、断片化酵素や輸送系との協調作用が考えられるため、それらの基質特異性に関する共通性を解析する。
細菌ゲノムに見出されたGAG遺伝子クラスターに多様性が認められるため、断片化・輸送・分解・代謝に関わる分子群を分類し系統化することにより、病原性細菌や常在細菌におけるGAG遺伝子クラスターの重要性を明らかにする。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] Conformational change in the active site of Streptococcal unsaturated glucuronyl hydrolase through site-directed mutagenesis at Asp-1152016

    • 著者名/発表者名
      Yusuke Nakamichi, Sayoko Oiki, Bunzo Mikami, Kousaku Murata, and Wataru Hashimoto
    • 雑誌名

      The Protein Journal

      巻: 35 ページ: 300-309

    • DOI

      10.1007/s10930-016-9673-y

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Structural determinants in bacterial 2-keto-3-deoxy-D-gluconate dehydrogenase KduD for dual-coenzyme specificity2016

    • 著者名/発表者名
      Ryuichi Takase, Yukie Maruyama, Sayoko Oiki, Bunzo Mikami, Kousaku Murata, and Wataru Hashimoto
    • 雑誌名

      Proteins

      巻: 84 ページ: 934-947

    • DOI

      10.1002/prot.25042

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] グリコサミノグリカンの輸送に関わる細菌由来基質結合タンパク質のドメインダイナミクス2017

    • 著者名/発表者名
      老木紗予子、蒲地玲子、三上文三、村田幸作、橋本 渉
    • 学会等名
      日本農芸化学会2017年度大会
    • 発表場所
      京都女子大学(京都市)
    • 年月日
      2017-03-20 – 2017-03-20
  • [学会発表] 腸内細菌における宿主多糖グリコサミノグリカン分解菌の多様性2017

    • 著者名/発表者名
      河合桂吾、蒲地玲子、老木紗予子、村田幸作、橋本 渉
    • 学会等名
      日本農芸化学会関西支部第498回講演会
    • 発表場所
      京都大学(京都市)
    • 年月日
      2017-02-04 – 2017-02-04
  • [学会発表] 病原性連鎖桿菌による動物細胞外マトリックス(グリコサミノグリカン)の分解2016

    • 著者名/発表者名
      老木紗予子、三上文三、村田幸作、橋本 渉
    • 学会等名
      第89回日本生化学会大会(2016年度)
    • 発表場所
      仙台国際センター(仙台市)
    • 年月日
      2016-09-27 – 2016-09-27
  • [学会発表] 腸内細菌による宿主多糖グリコサミノグリカンの分解に関するメタゲノム解析2016

    • 著者名/発表者名
      中道優介、河合桂吾、村田幸作、橋本 渉
    • 学会等名
      日本農芸化学会2016年度関西支部大会
    • 発表場所
      滋賀県立大学(彦根市)
    • 年月日
      2016-09-17 – 2016-09-17

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公開日: 2018-01-16  

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