研究課題
申請者は、従来 TNF 受容体型分子のシグナル伝達に関わる TNF-receptor associated factor 5 (TRAF5) が、サイトカインのシグナル伝達分子である gp130 に結合し、 IL-6 依存的な STAT3 の活性化を阻害する新たな分子機構を見出した。本研究では、この TRAF5 によるサイトカインシグナル機構の意義を明らかにし、TRAF5 による新しい炎症サイトカインシグナル機構の分子基盤の確立を目指す。平成28年度は、TRAF5 の gp130 阻害機構や TRAF5 と腸炎との関係を明らかにするための研究を主として行なった。TRAF5 の gp130 阻害機構に関して、TRAF5 が、立体障害的に JAK の近接化を阻害するという仮説のもと、これを評価するための実験系、すなわち JAK1 の2量体によりルシフェラーゼの酵素活性が発現する実験系の構築を試みている。本実験系により TRAF5 がJAK の2量体化反応を阻害する可能性を検証する。TRAF5 と腸炎との関連性について、Th17 細胞依存的に発症する実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE) と同様の機構で、Rag2 欠損マウスに移入した TRAF5 欠損 CD4+ T細胞が腸炎を増悪させることがわかった。これとは対照的に、野生型マウスとTRAF5 欠損マウスに DSS (デキストラン硫酸ナトリウム) を投与し急性腸炎を誘導したところ、TRAF5 欠損マウスにおいて腸炎程度が減弱したことから、上記のT細胞炎症とは異なる機序で TRAF5 が腸炎を制御することが示唆された。現在、骨髄キメラマウスを用いて、ドナー骨髄とレシピエントマウスそれぞれに発現する TRAF5 の腸炎における役割を調べている。
2: おおむね順調に進展している
gp130 の細胞内領域に結合する JAK は、gp130 の2量体化に伴い近接、活性化され、この初期反応が STAT の活性化に重要になる。ルシフェラーゼタンパク質を中途で分断し、N末端側とC末端側それぞれのドメインを JAK1 のC末端側に配置させたタンパク質を細胞内に発現させることで、JAK1 の2量体化依存的にルシフェラーゼの活性構造が再構築される。すなわち、ルシフェラーゼの酵素活性を指標に JAK の2量体化反応を評価できる。この実験系により、TRAF5 の存在、非存在下で IL-6 刺激に依存的なルシフェラーゼの酵素活性を計測することで、TRAF5 が JAK1 の2量体化反応を阻害するかどうかを明らかにできる。現在、JAK1-ルシフェラーゼ発現ベクターを作成し、本仮説を検証するための実験システムを構築中である。野生型及び TRAF5 欠損マウスからナイーブ CD4+ T細胞を精製し、Rag2 欠損マウスに養子移入することでT細胞誘導性腸炎を発症させた。TRAF5 欠損 CD4+ T細胞を移入したレシピエントマウスで腸炎の増悪傾向が認められた。本実験結果から、TRAF5 欠損 CD4+ T細胞が炎症性T細胞へ分化しやすいことが示唆され、TRAF5 の欠損により IL-6 受容体シグナルが亢進し、T細胞炎症が増悪するというこれまでの結果を支持するものであった。これとは対照的に、野生型及び TRAF5 欠損マウスに DSS を投与することで腸炎を誘導したところ、TRAF5 欠損マウスにおいて腸炎の減弱が認められた。現在、骨髄キメラマウスを作成し、ドナー骨髄とレシピエントマウスそれぞれに発現する TRAF5 の腸炎における役割を調べている。
TRAF5 による gp130 シグナル阻害作用のメカニズムに関して、TRAF5 の JAK の近接化阻害作用の観点から検討を進める。TRAF5 欠損マウスに誘導した DSS 腸炎に関して、骨髄キメラマウスの予備実験結果から、TRAF5 が発現する細胞の機能や性質により、TRAF5 が腸炎促進的かつ抑制的にはたらき、そのバランスにより炎症病態が制御されることが示唆される。今後、TRAF5 がどのように腸炎の炎症病態を制御するかについて検討を進める。OSM や IL-27 などのサイトカインタンパク質を発現、精製する実験系を確立した。今後、十分量のタンパク質を用いて、IL-6 以外のファミリーサイトカイン受容体のシグナル伝達におけるTRAF5の役割、炎症制御機構に関して調べる予定である。
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