研究課題
構造研究について、これまで一分子のSETDB1に対して多量のMCAF1が結合していることが分かり、それが原因でSETDB1に付加したタグ切断が困難であることがわかったため、今年度は、MCAF1の部分領域をより長くしSETDB1とMCAF1の相互作用を安定させる領域を決定するとともに、GST-His-SETDB1からHis-SETDB1に変更することによって、タグ切断を必要としない新たな精製系の確立を試みた。MCAF1のDomain1領域について、7種類の長さを有する欠失変異体を作製し、SETDB1との相互作用を調べた。その結果、N末端側から567番目から793番目のアミノ酸領域を含む部分まで長くすると、1対1で相互作用できることが示唆された。そこで、このタンパク質を大腸菌内で発現させた後、アフィニティ、イオン交換、ゲルろ過とそれぞれのカラムクロマトグラフィーにより精製を試み、ほぼ混在物を除去した複合体を得ることができた。SETDB1の機能解析については、SETDB1の翻訳後修飾について研究を行った。昨年度までにSETDB1の翻訳後修飾に必要な約20アミノ酸領域を手がかりに、2つのタンパク質を予想できた。今年度はこれらのタンパク質のcDNAをクローニングし細胞内で発現させた後、SETDB1との相互作用を調べた結果、低分子量Gタンパク質は結合せず、クロマチン制御因子のみが結合できることがわかった。一方、SETDB1のユビキチン化については、N末端側から867番目のリジン残基がユビキチン化されており、このユビキチン化はN末端側から594番目から665番目までのMBDドメインを除くと修飾されなくなること、さらにこのユビキチン化がSETDB1のメチル化活性に重要であることを明らかにした。(PLoS One, 11(10), e0165766, 2016で報告)
2: おおむね順調に進展している
構造研究については、SETDB1は機能が明らかになってから15年以上経っているが、未だ構造の解明はなされておらず、非常に難解な研究課題である。今年度はMCAF1のDomain1領域について、7種類の長さを有する欠失変異体を作製し、N末端側から567番目から793番目のアミノ酸領域を含む部分を用いたところ凝集が抑えられ、SETDB1と1対1で相互作用できる結果が得られた。このMCAF1領域とSETDB1のN末端から195番目の領域を同時に大腸菌で発現させ、これら複合体を3種類のカラムクロマトグラフィーを用いることより分離し、ある程度安定に複合体タンパク質を精製することができた。機能解析については、SETDB1の翻訳後修飾に関与するタンパク質として、昨年度予想した2つのタンパク質のうち1つがSETDB1にが結合することを確かめた。また、SETDB1のMBDドメインをN末端側から除去すると、ユビキチン化修飾が見られなくなり、メチル化活性も消失することを発見した。そこでユビキチン化される部位の探求をおこなったところ、除去したMBD領域ではなく、さらにC末端側のSET領域に存在するリジンであることを、全長SETDB1分子を用いた点変異実験から突き止めた。これらの成果は、SETDB1のトリメチル化活性に重要な役割を果たしているリジン残基のユビキチン化を明らかにしたことになり、計画以上の成果が得られ論文に発表する事ができた。
構造研究については、哺乳類細胞における活性のあるSETDB1単独の大量発現、精製は非常に難しかった。そこで昨年度少し戦略を変更した結果、SETDB1とMCAF1との複合体を形成させることに成功し、さらにその精製方法についての道筋をつけることができた。今年度はその方法を用いて、大量精製、結晶化に挑戦する。機能解析については、一昨年度の成果によりSETDB1の翻訳後修飾を制御する候補タンパク質を得る事ができ、昨年度にそのうちの一つのタンパク質とは実際に相互作用していることを確かめた。そこで今年度は、このタンパク質について、SETDB1の翻訳後修飾にどのように関わっているかについてさらに研究を進める。また、SETDB1の核内での安定性について、プロテアソームが関与することを明らかにしてきたため、SETDB1の分解に関わるユビキチンリガーゼの探索やMCAF1との関わりを調べるアプローチを試み、ガンとの関係について迫ってみたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 備考 (1件)
PLoS One
巻: 11 ページ: 1-19(e0165766)
10.1371/journal.pone.0165766.
http://www.osaka-u.ac.jp/homepage/b018/