研究課題
ヒトPolηの構造に基づいて、鋳型DNAとの相互作用に重要と考えられるアミノ酸残基42番目および64番目のトリプトファン、378番目のロイシンをそれぞれアラニン、アラニンとセリン、アラニンとグリシンに置換した点変異体を作成し、それらのタンパク質を大腸菌にて発現・精製後、生化学的な解析を行った。W42とW64はアミノ酸置換によりDNA結合活性が低下し、特にW42AのDNA結合活性はW64AおよびW64SのDNA結合活性よりも低かった。L378はアラニンへの置換により野生型ヒトPolηとの間に顕著な差は認められなかったが、グリシンへの置換によりDNA結合活性が若干低下した。主たる紫外線損傷であるCPDを有する鋳型DNAと、それに相補的でCPDの手前までの16 merのプライマーを使用したプライマー伸長反応の結果、L378Aを除くすべての変異体で野生型と比較して17 merと19 merの生成物の蓄積がみられた。この結果から、鋳型DNAとの相互作用が弱い変異体は全て野生型よりDNA鎖の伸長反応が進みにくいことが示唆された。やはりヒトPolηの構造情報から、297番目のトリプトファンを中心とした疎水性ポケットがヌクレオチドとの相互作用に重要であると考えられたので、W297変異体を作成してそれらの性質を調べた。その結果、野生型およびW297Kにおいて高濃度のdATPによるポリメラーゼ活性の阻害がみられたのに対し、W297YおよびW297Aではこの阻害がみられなかった。dATPのアナログについて阻害効果を調べたところ、dGTPにも若干の阻害効果がみられ、プリン環、デオキシリボース、リン酸基が重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究を開始するにあたって準備状況が整っていたことなどから、ほぼ順調に進んでいる。ただPolη変異体のうち欠失変異体については、組換えタンパク質が不溶性になる傾向がみられ、生化学的な解析が十分には出来ていない。一方で、変異体を発現するXP-V細胞の作成やヒトPolηの野生型や変異体と相互作用するタンパク質の探索、そしてヒトPolηを阻害する化合物の探索系の構築については次年度に向けての準備が順調に進んでおり、全体的には「(2)おおむね順調に進展している。」と判断した。
Polη変異体を発現するXP-V細胞のin vivoでの解析を進め、これまでに得られているin vitroでの生化学的な解析の結果と併せて、それぞれのアミノ酸残基の役割について総合的な判断をする。一方、組換えタンパク質が不溶性になる傾向の見られた欠失変異体については、タグを変更するなどして可溶性に出来ないかトライする。またヒトPolηの野生型および変異体と相互作用するタンパク質について、質量分析やウエスタンブロットによって同定を進め、相互作用の生理的な意義を明らかにしていく。さらに化合物ライブラリーからのヒトPolη阻害剤のスクリーニングを進めていく。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
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