研究課題
メタボローム研究における新たな方法論の創出と技術展開として、従来のLC-MS/MSに加えてイオンモビリティシステムを用いることで、脂肪酸代謝物の異性体分離およびマトリックス効果の軽減によるシグナル検出感度の向上に成功した。これにより、生体内で生成する類似構造を有する脂肪酸代謝物をより高感度に一斉分析することが可能となった。また、脂肪酸代謝バランスの変化による疾患制御の分子メカニズム解析として、ω3脂肪酸を多く含む食用油によって食物アレルギーの発症や進展が制御できることを見いだした。具体的には、αリノレン酸(18:3n-3)が豊富な亜麻仁油を投与した群では、リノール酸(18:2n-6)が豊富な大豆油を投与した群に比べて卵白アルブミン感作による食物アレルギーの発症や進展が著しく抑制されることを見出した。この時の腸管における脂肪酸代謝についてLC-MS/MSを用いた包括的なメタボローム解析を行ない、その中でも量が多く変化率も高い脂肪酸代謝物としてEPAおよびその代謝物17,18-epoxy-eicosatetraenoic acid (17,18-EpETE)を見出した。さらに17,18-EpETEの投与実験を行ったところ、食物アレルギー症状に対する強い予防効果および治療効果が認められた。これらの結果から、亜麻仁油から摂取されたαリノレン酸が大腸組織において効率的にEPAに変換され、活性代謝物である17,18-EpETEへと変換されたものと考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究から、LC-MS/MSによる脂肪酸代謝物の包括的メタボローム解析システムにイオンモビリティ技術の導入を試み、これまでにない高感度かつ分解能の高い分析が可能になった。この系を用いることで、本研究課題に加えて国内外のグループとの共同研究などを通して、疾患制御における脂肪酸代謝バランスの重要性についての基礎研究を牽引している。また、食用油に含まれる脂肪酸バランスが食物アレルギーの発症に影響することを動物実験で明らかにし、さらに上記メタボローム解析から活性代謝物17,18-EpETEの同定に成功した。これら一連の研究成果は社会的なインパクトも大きく、今後機能性食品や創薬シーズとしての応用が大いに期待される。以上、本研究は当初の計画以上に進展し、今後の発展性が大いに期待される。
今後さらにLC-MS/MSによる脂肪酸代謝物の包括的メタボローム解析システムの技術向上を目指す。とくに、腸内細菌叢が生成する脂肪酸代謝物は不飽和結合の幾何異性体が多くLCによる分離が困難であることから、イオンモビリティによる異性体分離を検討する。また、脂肪酸代謝バランスの変化による疾患制御の分子メカニズム解析として、本年度の研究で見出された17,18-EpETEなど内因性の炎症制御分子について、生体内でその産生に関わるボトルネック酵素の同定を目指し、本代謝経路の制御機構およびω3脂肪酸の機能性発現における生理的意義についての解析を進める。さらに、17,18-EpETEが抗アレルギー作用を発揮するための作用機構について、標的細胞、細胞内シグナル、標的分子のレベルで明らかにすることを目指す。
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