研究課題/領域番号 |
15H04650
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
荒井 緑 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (40373261)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 天然物 / 幹細胞 / タンパク質 / ケミカルバイオロジー / 再生 |
研究実績の概要 |
本研究では組織幹細胞の再生能力に着目し,それらの「多分化能」を制御し,「再生プロセスを加速する化合物」を天然物を基盤として創製することを目的とする.再生プロセスに関わるシグナル伝達(Wnt, Hh, Notch)等の鍵タンパク質に着目し,それらに結合する天然物を天然物抽出エキスから釣り上げる「標的タンパク質指向型天然物単離」を用いて迅速に単離・構造決定する. 本年度は神経幹細胞分化に関わるbHLH転写因子の一つであるHes1 (hairy and enhancer of split 1) 担持セファロースビーズを用いたHes1に結合する化合物のスクリーニング及び天然物単離、活性評価を行い、また、新規なビーズスクリーニング構築の試みとして、ヘッジホッグシグナルの最下流に位置する転写因子GLI1担持セファロースビーズを用いた標的タンパク質指向型天然物単離」法の構築と天然物単離を行った。 Hes1担持セファロースビーズを用いたスクリーニングを当研究室保有の放線菌エキスライブラリー、植物エキスライブラリーに対して実施したところ、放線菌株2種、植物エキス1種がヒットエキスとして選出された。放線菌株2種からは、新規天然物を含む2種の天然物の単離に成功した。これらの化合物はHes1に結合することが確認され、また弱いながらもHes1二量体形成阻害作用を有していた。新規化合物であるマクロライド系天然物は部分タンパク質担持ビーズを用いた詳細な検討の結果、Hes1のC末端側に結合することが明らかとなった。また、以前に単離していた新規天然物については神経幹細胞の分化活性化能を有することが明らかとなった。 ヘッジホッグ(Hh)シグナルの最下流に位置する転写因子GLI1担持セファロースビーズを用いるスクリーニング系を構築することに成功した。さらに、2種のアミド化合物の単離に成功し、Hhシグナル阻害活性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前に構築したHes1ビーズスクリーニングを用いての探索は順調に進んでおり、放線菌2種からHes1に結合する化合物を2種単離することに成功している。また、新たな標的タンパク質指向型天然物単離法の構築の試みとして、Hhシグナルの最下流で働く転写因子GLI1 (Glioma-associated oncogene homolog 1)に着目し、GLI1担持セファロースビーズを用いた天然物の探索法を構築した。用いたGLI1はDNAと結合するジンクフィンガードメインを5つ有する部分タンパク質として大腸菌から発現、精製して用いた。構築したスクリーニング法を用いて当研究室の植物ライブラリーをスクリーニングし、バングラデシュ産コショウ科植物にGLI1に結合する天然物が含まれていることを見いだした。HPLCを用いて該当天然物を2種単離することに成功し、細胞アッセイ系でHhシグナル阻害作用を検討した結果、これらの化合物はHhシグナル阻害作用を有することが明らかとなった。さらに、GLI1とDNAの複合体形成阻害能をゲルシフトアッセイにて評価したところ、これらの化合物はGLI1とDNAの複合体形成を直接に阻害することが明らかとなった。このように、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに構築しているHes1およびGLI1担持ビーズを用いた標的タンパク質指向型天然物単離を引き続き行い、標的のそれぞれのシグナルの阻害剤を天然物から見いだし、それらの活性を評価していく。さらに、平成28年度は新たにノッチシグナルの最下流に位置するDNAとタンパク質3種(Notch intracellular domain, RBP-J, MAML)との複合体を阻害する天然物を探索すべく、これら鍵タンパク質を用いたタンパク質担持ビーズを作成し、スクリーニング系を構築する。タンパク質は大腸菌から発現させるが、3種のうち発現量が良好なものをビーズに担持し、系を構築することを計画している。神経幹細胞の分化を抑制するHes1はノッチシグナルにより制御されているため、ノッチシグナル阻害剤は神経幹細胞の分化を活性化することが期待される。
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