研究課題/領域番号 |
15H04655
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 新 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (40361331)
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研究分担者 |
俣野 哲朗 国立感染症研究所, エイズ研究センター, センター長 (00270653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 免疫再生 / 細胞分化T細胞 / アカゲザル / 安全性 |
研究実績の概要 |
iPS細胞を介した抗原特異的T細胞の再生によって、体外で大量に産生した抗原特異的T細胞を使った免疫治療の可能性が示唆された(Nishimura, Kaneko et al, 2013, Cell Stem Cell, Kitayama et al 2016, Stem Cell Reports)。しかしiPS細胞に由来するがゆえに、体細胞としてのT細胞とは異なる性質、特に危険性を冷静に評価する必要がある。最終分化T細胞としての生体内での安定性、造腫瘍性、抗原特異性の変化や喪失、特に標的抗原に暴露した結果として起き得る過剰な免疫反応や再生T細胞そのものの性質変化など、こういった安全性に関する事項は免疫不全マウスへの異種移植による短期観察では正確な評価が困難である。そこで本研究では、ヒトに近縁の霊長類モデルを用いた自家移植、あるいはiPS細胞の有力な臨床応用法の一つであるMHC近似同種移植の系で評価を行い、ヒト臨床における問題点を予見・抽出することを目的としている。 平成27年度は3頭のアカゲザルから複数のT-iPS細胞を作製し、造血細胞への分化能力に基づいて株の選択を行い、それらのiPS細胞を用いてT細胞への分化誘導系を最適化した。うち2頭由来のT-iPS細胞に関しては、機能的T細胞への十分な分化能を持つことを確認した。具体的にはこれらのアカゲザル再生T細胞はT細胞受容体刺激に反応して増殖を示し、細胞傷害性を示すことを確認した。 またアカゲザル個体への再投与実験にはマウスモデルの100倍以上の細胞数が必要であるため、拡大培養と遺伝子マーキングに関する技術開発を行った。その結果、複数のモダリティに対応する遺伝子マーキングを為された再分化T細胞が十分量得られるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
クローン化されていないT細胞からのiPS細胞樹立~再分化T細胞の分化誘導と遺伝子マーキング~T細胞機能評価~大量培養といった一連の実験を終え、自家移植の準備が整った。クローン化T細胞からの樹立について、一般にT細胞クローンからのiPS細胞は難易度が高いことが知られる。実際、SIV抗原に特異性を示すアカゲザルT細胞クローンからのiPS細胞誘導に至るまでに数種類のクローンを用いて複数回の実験を行う必要があった。 移植時期が予定よりも遅れているが、研究そのものは進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度にアカゲザルT-iPS細胞の樹立法と分化誘導法について多くの知見を得ることができた。平成28年度初頭からアカゲザル個体への自家再生T細胞移植を開始する予定であり、移植後の細胞動態と安全性に関するデータ取りが始まる。具体的には以下の研究を行う。 ・-10^8/kgの自家再分化T細胞を経静脈投与する。生着が得られない場合は、同一個体で投与量を漸増し、生着を試みる。平成28年度中に、再分化させた非抗原特異的T細胞3-4個体、SIV抗原特異的T細胞2個体程度の自家移植を予定している。 ・フローサイトメトリー:1-2ヶ月ごとに末梢血を採取し、再分化T細胞のキメリズムと、細胞疲弊、免疫記憶、(SIV抗原特異的T細胞の場合は)抗原特異性、に関する分子の発現を経時的に観察する。 In vitro機能評価:血液から採取した再分化T細胞を用いて抗原反応性の増殖、サイトカイン産生、細胞障害性が長期にわたって安定しているかどうかを評価する。また再分化T細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ等で経時的かつ網羅的に評価する。 PET:HSV-TKの検出が可能な[18F]FEAUを用い、再分化T細胞の異常分布や集積を経時的にPETにより確認する。PETにて検出が可能な異常集積があれば、可能な限り生検による病理組織診断を行う。 平成27年度中に自家移植の系を複数頭で評価し、平成28年以降のMHCハプロタイプ一致移植実験系の立案に還元する。
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備考 |
提言書:PMDA科学委員会CPC専門部会(編)「再生医療等製品の品質確保における基本の考え方に関する提言」2015年8月発出
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