研究課題
低マグネシウム(Mg)血症は薬物療法において重大な障害になるが、その発症機序は大部分が不明であり、有効な治療法は全く開発されていない。本研究では、低Mg血症におけるMgチャネルの発現異常機構の全容を分子レベルで解明し、低Mg血症の回避及び治療につながる薬剤の開発基盤を構築する。さらに、従来の血液検査で見逃されていた低Mg血症を早期診断するための予防バイオマーカーを開発することを目的とする。今年度は、CLDN16 Mgチャネルの細胞内輸送蛋白質を探索し、PDZRN3と呼ばれる蛋白質を同定した。免疫沈降実験により、PDZRN3はPDZ結合モチーフを介してCLDN16と結合することが明らかになった。尿細管上皮細胞において、PDZRN3は細胞質とタイトジャンクションに分布した。CLDN16の細胞内局在はリン酸化によって制御されており、PKA阻害剤のH-89は細胞質におけるCLDN16とPDZRN3の共局在量を増加させた。PDZRN3 siRNAを用いてPDZRN3の発現量をノックダウンすると、H-89によるCLDN16の細胞質への移行が阻害された。以上の結果から、PDZRN3は脱リン酸化型CLDN16の細胞内への移行調節に関与すると示唆された。抗がん剤のゲフィチニブやエルロチニブは、TRPM6 MgチャネルのmRNA量を低下させた。そのメカニズムを調べたところ、ERKとc-Fosのリン酸化阻害が関与することが明らかになった。この発現低下を回復させる因子を探索し、TNF-aを見出した。TNF-aはERKやc-Fosのリン酸化に影響を及ぼさず、NF-kBのリン酸化を介してTRPM6の発現量を増加させることを解明した。これまでにTRPM6の発現量がNF-kBで調節されるという報告はないため、低Mg血症の回避に向けた新たな治療薬の開発につながることが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
今年度計画していたMgチャネル(TRPM6、CLDN16)の細胞内輸送蛋白質の同定、薬剤性低Mg血症の発症機序の解明、薬剤性低Mg血症回避型薬剤の開発といった3課題を、順調に進めることができた。しかし、当初予定していた研究分担者の遠藤が海外留学で抜けたため、薬剤性低Mg血症の予防バイオマーカーと予測診断法の開発がやや遅れている。
平成27年度の課題がおおむね順調に進展したため、平成28年度は当初の計画通りに進める予定であるが、代表者と分担者が密に連絡をとり、研究の進行を加速させる。研究成果の一部を学会発表したが、より積極的に学会発表することにより、研究成果を社会や国民に広く発信する。さらに、研究成果を論文にまとめ、国際学術雑誌に発表する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Biochimica et Biophysica Acta
巻: 1863 ページ: 1170-1178
10.1016/j.bbamcr.2016.02.015.
巻: 1848 ページ: 2326-2336
10.1016/j.bbamem.2015.07.003.
http://sv1.gifu-pu.ac.jp/lab/seika/