低マグネシウム(Mg)血症は薬物療法において重大な障害になるが、その発症機序は大部分が不明であり、有効な治療法は全く開発されていない。本研究では、低Mg血症におけるMgチャネルの発現異常機構の全容を分子レベルで解明し、低Mg血症の予防及び治療につながる薬剤の開発基盤を構築する。今年度は、下記の研究成果が得られた。 1. 遺伝性低Mg血症患者で同定されたCLDN16の遺伝子変異により、CLDN16はタイトジャンクションに分布せず、細胞質内に分布することが明らかになった。マラリア治療薬のプリマキンがCLDN16変異体の局在異常を改善し、細胞間Mg透過性を亢進させることを発見した。プリマキン処理によって細胞障害が改善したため、CLDN16の細胞内蓄積が障害を惹起させることが示唆された。遺伝性低Mg血症の治療において、プリマキンが有用であると考えられる。 2. 腎尿細管上皮細胞において、抗がん剤のゲフィチニブ処理によりTRPM6 Mgチャネルの発現量が低下した。この発現低下を改善する化合物を探索し、糖尿病治療薬のロシグリタゾンを見出した。ロシグリタゾンはPPARgammaのリン酸化と核移行を介して、TRPM6の転写活性を増大させた。PPARgammaとヘテロ二量体を形成するRXRの核内分布量は変化しなかった。また、TRPM6プロモーター領域へのPPARgammaの結合は、PPARgammaアンタゴニストの共処理によって阻害された。抗がん剤などの薬剤性低Mg血症の治療において、ロシグリタゾンが有用であることが示唆された。
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