研究課題/領域番号 |
15H04659
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
三隅 将吾 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (40264311)
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研究分担者 |
高宗 暢暁 熊本大学, イノベーション推進機構, 准教授 (60322749)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HIV感染症 / 治療戦略 |
研究実績の概要 |
cARTの進歩により多くの感染者がその恩恵を受けられるようになった一方で、未治療新規HIV感染者がすでに薬剤耐性ウイルスに感染している数が増えてきている。このことから、世界中の多くの研究者がより治療効果の高い抗HIV剤の開発にしのぎを削っている。その一方で、抗HIV剤開発の歴史から振り返っても明らかなように、HIVの耐性獲得およびリスク管理の観点から既存薬の作用と全く異なる治療薬の開発準備は、同時並行的に実施されるべきであると思われる。本研究では、現行のcARTの問題点を少しでも改善するために、あえてHIV伝播を制御する細胞性因子を探索・選別し、HIVゲノムを宿主ゲノムに組み込ませないことを目指した新規治療戦略を提案することを目的とする。 本年度は以下の様な実績を上げることができた。我々は脱殻過程におけるHIV capsid (CA) coreの崩壊にCAのSer16残基特異的なリン酸化が分子スイッチとして機能し、peptidyl-prolyl isomerase Pin1と相互作用することで脱殻すること、CA Ser16がERK2によってリン酸化を受けることを明らかにした。そこで、MEK/ERK signaling cascadeを標的とし、宿主-HIVタンパク質間の相互作用を阻害する新規抗HIV剤の探索を行った。その結果、細胞毒性がみられない条件下で、ウイルス産生細胞にTrametinibを処理することで、ウイルス粒子内のERK2のリン酸化の程度が減少し、さらに、HIVの逆転写および組込み過程が抑制された。これは、MEK-ERK2 signaling cascade が阻害されることで、HIV CA Ser16のリン酸化が抑制され、ウイルス侵入後の脱殻過程が抑制されたと考えられる。本研究はウイルスタンパク質を標的とした既存の治療戦略ではなく、MEK-ERK2 signaling cascadeに関連する宿主タンパク質とHIVタンパク質間の相互作用を阻害し、薬剤耐性ウイルスに対抗し得る新規HIV治療戦略に繋がると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
27年度3月までに本研究プロジェクトの基盤を構築してきたが、28年度4/14および4/16の大規模地震により研究室のハード面のトラブルおよびサンプルの損失が発生したために、復旧にどれだけ時間を要するか現時点では予測できない。少なくとも現時点で得られている結果をいち早く論文にすることに務め、また、本プロジェクトの方針にぶれが生じないように適切に対応したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、以下の5つの目的を掲げている。1) Pin1阻害剤の探索とHIV感染阻害効果の検証、2) ERK2のウイルス粒子内取り込み阻害剤の探索とHIV感染阻害効果の検証、3) FDA承認済み新規のMEK阻害剤trametinibのERK2活性化阻害を介したHIV脱殻阻害効果の検証、4) GAPDHのtRNALys3取り込み阻害機構を強化するための抗HIV剤の探索と抗HIV活性評価、5) HIV粒子プロテオーム解析によるHIV感染初期過程に関与する新たな細胞性因子の探索 上記のうち、3)に関しては平成28年度中に目的をほぼ達成できた。また、5)に関しては、あらたな細胞性因子の候補を7つ見出すことができており、現在それらについてもHIV複製との関係について調べている。1), 2)および4)については、現在候補化合物の探索を進めており、有力な候補物質が見出せ次第、合成展開を進めるとともに、in vitroからin vivoの解析が進められるように準備をすすめていきたい。
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