今後有用性が期待できる植物を用いた抗体医薬の製造(植物抗体)の技術基盤の確立、および有用性と安全性の研究を目的とした。本研究では、志賀毒素(Stx1)特異的な分泌型免疫グロブリンA (SIgA)を植物で生産し、経口投与可能な抗体医薬への発展をめざしている。SIgAは、抗体のH鎖、L鎖およびJ鎖で構成される2量体IgAと、粘膜表面への分泌に必要な分泌片(SC)からなる、4種類のポリペプチド鎖で構成される。特に、SCをいかに効率よく植物で生産させるのかが重要な点の一つである。小胞体保留シグナルであるKDEL配列をC末端側に配置した分泌片SC-KDELを発現したシロイヌナズナを確立した。その結果、植物内での分泌片発現量の増加および、植物特有な糖鎖付加量の減少に成功した。志賀毒素(Stx1)特異的なマウス2量体IgAモノクローナル抗体、動物細胞で発現させた組換え型2量体ハイブリッドIgA (hyIgA)とSC-KDELを試験管内で反応させ分泌型IgA (SIgA)を構築した。試験管内で構築したSIgAは、抗原であるStx1Bに結合した。さらに2量体hyIgAを発現するシロイヌナズナとの交配で、SIgAを発現する植物が得られた。SIgAを一括で発現させた場合よりSIgA産生量の増加が達成され、志賀毒素中和活性も保持されていた。安全性研究としては、精製が可能となった分泌片を植物由来biologicsのモデルとし、マウスへの経口投与および静脈内投与を比較して抗体産生を評価した。SC-KDELの静脈内投与では、マウスにSC-KDELに結合するIgG抗体が誘導されたが、経口投与では抗体産生が誘導されず安全性が明らかにされた。以上より、植物で生産した志賀毒素特異的分泌型IgAの毒素中和活性を実現し、IgA植物抗体の経口投与における安全性の基礎となる事実を示すことができた。
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