RNA編集の一種であるA-to-I RNA編集は、遺伝子の発現および機能に影響を与え得る転写後修飾であり、adenosine deaminase acting on RNA (ADAR) により触媒される。本研究は、薬物応答性の個人差や個人内変動におけるRNA編集の意義を明らかにすることを目的としている。 本年度は、主な薬物代謝酵素であるシトクロムP450(CYP) に対して電子を伝達するシトクロムb5 (b5)に焦点をあて、研究を進めた。ヒト肝癌由来HepG2細胞においてADARをノックダウンした時、b5タンパク質発現量が有意に上昇したことから、b5はADARにより負に制御されていることを見出した。b5プロモーター領域を含むレポータープラスミドを用いたルシフェラーゼアッセイにより、ADARのノックダウンによってb5転写活性が有意に上昇することを明らかにした。さらに、ADAR2をノックダウンした時とは異なり、ADAR1をノックダウンした時にb5 mRNAの半減期が有意に延長したことから、ADAR1は転写レベルおよびmRNA不安定化を介して、ADAR2は転写レベルでb5の発現を負に制御することが示唆された。ADARによるb5の発現制御が、CYPの酵素活性に影響を及ぼすかどうか、CYP発現アデノウィルスを感染させたHepG2細胞を用いて検討した。ADAR1のノックダウンによるb5の発現上昇が認められた時、b5依存的CYP3A4酵素活性は上昇傾向を示した一方で、b5非依存的CYP1A2酵素活性は変動しなかったことから、ADAR1はb5の発現変動を介してCYP3A4酵素活性に影響を及ぼしている可能性を見出した。
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