昨年度に構築したメタボロームの手法を用い、炎症性腸疾患モデルマウスの疾患部位に高発現する膜輸送体OCTN1の生体内基質解明を引き続き試みたところ、すでに同定しているスペルミン以外にも、OCTN1に輸送されると思われるいくつかのピークが検出された。現在、これらピークの物質同定を進めている。一方、同じくOCTN1の生体内基質であるエルゴチオネインをマウスに投与後、その代謝物として報告のあるヘルシニンおよびS-メチルエルゴチオネインの血中濃度と臓器中濃度、尿中排泄を測定したところ、正常マウスにおいてエルゴチオネイン投与後にこれら物質濃度の上昇が検出された。検出は投与後数日経過したのちに見られることから、非常に遅い代謝過程と考えられたが、詳細な体内動態解析の結果、投与されたエルゴチオネインの大部分が腎臓で再吸収される野生型マウスにおいては、これら代謝物への代謝過程はエルゴチオネインの血中からの主要な消失経路であることが示唆された。病態時におけるエルゴチオネインとOCTN1の役割を解明する目的で、慢性腎臓病患者における血液中エルゴチオネイン濃度を測定したところ、健常人で見られるレベルに比べ、はるかに血中濃度が低下することが示唆された。血中濃度の低下のメカニズムを探るため、マウスを用いて検討したところ、エルゴチオネインの小腸からの吸収低下が考えられた。OCTN1欠損マウスでは野生型マウスに比べ慢性腎臓病モデルの病態が悪化すること、エルゴチオネイン添加により尿毒症物質による腎上皮細胞毒性が軽減されること、腎移植を受けた患者においては低下したエルゴチオネイン濃度が移植後に回復すること等から、エルゴチオネインとOCTN1は慢性腎臓病において重要な役割を果たすことが示唆された。
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